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タイ市場を解明!成長の秘密とビジネスチャンス

海外進出
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タイは、東南アジアの中でも早くから産業化が進んだことで、長い期間経済成長を続けてきました。国際市場での台頭が著しいタイには、ビジネスリーダーや投資家からの注目が集まり、海外進出先としても高い人気があります。タイへの進出には大きなメリットがある一方で、成功を目指すためには、タイ市場の特性を理解することが不可欠です。

この記事では、タイの魅力、変化、そして将来の展望について詳しく解説し、ビジネス展開におけるタイのポテンシャルを明らかにしていきます。

タイ市場の魅力

海外進出を目指す企業が進出先を決める際、より多くのメリット、つまり安心材料が必要となります。現在、進出先として注目されているタイ市場には、どんな魅力があるのか、その背景とともにご紹介します。

人口とGDP

タイは約7,000万人の人口を抱える国です。国土は日本の1.4倍ほどあるため、比較的人口密度にゆとりがあるように思われますが、国土の1.5%を占める首都バンコクに人口の約25%が集住しています。バンコクの人口集中の理由としては、政治や行政の中心地としての機能を果たしていること、政府機関や企業の本部が置かれ、経済活動が活発に行われていること、製造業やサービス業、観光業などが盛んであり、多くの雇用機会を生み出していること等が挙げられます。

経済では、タイの名目GDPは5,135億ドルで、ASEAN内ではインドネシアに次いで2位にランクされます。また、そのGDPに関してもタイ全体の約47%をバンコク首都圏が占めています。一人当たりのGDPは7,651ドルで、上位中所得国に位置付けられます。人口やGDPが都市に集中することで、地方との格差などの課題も生じますが、都市の発展・行き届いたインフラ整備など、ビジネスにおいてはそれが利点となることが多いともいえます。

ASEANのハブ機能

ASEANといわれる東南アジア諸国連合は、インドネシア・シンガポール・タイ・フィリピン・マレーシア・ブルネイ・ベトナム・ミャンマー・ラオス・カンボジアの10ヶ国によって形成されています。ASEANのハブ機能として、タイは地域経済の中心という重要な役割を果たしています。その理由として地理的な優位性があります。

タイは「大メコン経済圏」という東南アジア5ヵ国を流れるメコン川流域に沿った、約2億3,000万人を擁する巨大な経済圏の中心に位置しており、3つの経済回廊で周辺国とつながっています。その地理的優位性が隣接する国々との交流を容易にすることで、効率のよい輸出を実現し、生産拠点としての魅力へとつながっているのです。

ASEAN経済共同体では「域内関税撤廃による物品貿易の自由化」の範囲が広く盛り込まれているとされています。タイを始めとするマレーシア、インドネシアといった先発加盟国にとっては、後発加盟国の市場を取り込むことはもちろん、自国より低コストの労働力を巻き込むことで生産向上が見込めます。ASEAN後発加盟国となるCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)のうち3ヵ国と地理的に陸路でつながっており、タイ自国の物流インフラを駆使することで、各国と提携して効率的な生産体制を築くことが可能になります。中国、ベトナムなどとの製造・販売などでの連携を考慮すると、多くの回廊(道路)の結束点となるタイの地理的優位性が、ASEANのハブとしての機能を支えているといえるでしょう。

外資企業向けの税制優遇措置

タイ政府は、外国からの投資を促進し、経済成長を後押しするために様々な税制優遇措置を講じています。特に、タイ政府が優先する産業分野や特定の地域に投資する企業を対象に設定されており、投資委員会(BOI)が定めた条件を満たすと、さまざまな恩典(優遇措置)を受けることができます。

恩典は大きく分けて、「税制上の特典」「外資規制の緩和」「事業用の土地所有の許可」「外国人就労許可条件の緩和」があります。業種によって異なりますが、法人税の免除、機械・原材料輸入税免除などがあり、法人税の免除は認定されたプロジェクトに対して最大8年間与えられます。主な恩典は以下の通りとなります。

サイトより文章引用

また、研究開発など、国または産業の競争力を向上させる投資を行った場合や、特定奨励地域や工業団地など、地域分散や産業地区開発を促進するとされる立地条件を満たした場合は、法人税減免期間の延長などの追加的な恩典が受けられます。

さらに、タイ政府は多くの国と二重課税を回避するための条約を締結しており、外国からの収益が二重に課税されることを防いでいます。これにより、外資企業はタイでの事業展開において税務上のリスクを軽減することができます。これらの措置は、外資企業にとって魅力的なビジネス環境を整え、タイへの投資や事業展開を促進する役割を果たしています。

タイ市場の変化

経済成長と世界のトレンドに伴い顕著に様変わりするタイ市場は、タイへ進出を視野に入れた企業にとって大きなビジネスチャンスであり、市場を選ぶ際にその変化は外せない判断材料となっています。では、タイの市場はどのように変貌を遂げているのでしょうか。

外資企業の生産拠点

タイは、農業・軽工業から重工業への転換を目的とした投資を奨励するため、1977年にタイ投資委員会(BOI=Board of Investment)という政府機関を設置し、以来40年にわたり優遇措置などによってタイ国内への投資を促してきました。これにより海外投資が増加し、急速に工業化が進んだことがタイ市場の特徴とされています。

タイに進出している日本企業の業種は、製造業、卸、小売業、サービス業の順に多く、上位3業種で全体の80%を占めており、中でもその多くは自動車や電子産業を中心とした製造業となっています。2001年に就任したタクシン首相が掲げた「タイをアジアのデトロイトに」というスローガンをもとに積極的に海外の自動車メーカーを誘致し、現在ではトヨタ自動車、日産自動車、ホンダ、マツダ、スズキ、いすゞ自動車、日野自動車、三菱自動車など、日本の主要メーカーの大半が進出しています。また、タイでは輸入車に対する関税を基本200%に設定しているため、多くの自動車メーカーはタイを拠点にして生産を行っているのです。

タイを生産拠点とする数多くの企業を受け入れるインフラとして、工業団地が重要な役割を担っています。現在稼働中の工業団地は全国で74箇所、この過半数が首都バンコクの東西並びに、効率性を踏まえて原材料や製品輸出入のゲートとなるシャム湾沿いに広がっています。タイには、工業用地開発についても恩典を受けられる制度があるため、生産拠点としてのタイ進出や、工場設立にその制度を活用する企業も少なくありません。

日系完成車メーカーは、それを支える日本の部品メーカーの進出や技術供与を促し、産業集積を形成しています。こうした集積は、部品の調達を容易にし、コストの削減にも繋がるため、タイの製造業の強みとなっています。しかしその一方で、地場産業の参入と成長という点でより難しくなるという問題も抱えているため、人材育成に力を入れる体制も進んでいます。

日本企業の海外進出拠点数ランキング、東南アジア第1位

2022年10月時点で、海外に進出している日本企業の進出総数(拠点数)は、73,887拠点とされています。その中で、タイへの進出拠点数は中国、アメリカに次ぐ3位の5,856社(2021年3月JETRO調査)であり、4位の世界最大の人口を持つインドをも凌いでいます。東南アジア別に見てみても、タイへの進出数が圧倒的で、タイはASEAN最大の日本企業集積地となっています。

日本企業の進出が多い理由としては、安定したGDP、輸出入の利便性、そして税制の優遇措置など多くのメリットが挙げられますが、他にも理由はあります。

まず1つに、日本マーケットの発展です。日本企業の進出に伴い日本製品やサービスがタイ国内で拡大しています。日本製品への関心の高まりや、中間層・高所得者層の増加も日本マーケットの発展を促しています。

2つ目に、タイが親日国ということです。タイにおける在留邦人は72,308人(2023年10月)に上り、タイへの日本人渡航者は、パンデミックの影響により激減しましたが、2022年には29万人まで回復しました。一方、日本における在留タイ人は59,271人(2023年6月)で、日本へのタイ人渡航者も同様にパンデミックの影響で著しい減少を見せましたが、2023年は約100万人まで回復しており、両国間の交流は盛んです。

こうした交流により、日本文化への理解や親しみがタイ国内で高まり、日系企業の進出が受け入れられやすくなり、容易な現地労働力の確保へと繋がることになります。

3つ目は実績の豊富さです。近年までタイへ一番多く投資したのは日本企業であり、タイへの投資総額の3分の1を日本が占めた時期もあった程です。日本企業が進出先を決める際に、その実績が安心感を生み、結果としてタイを選ぶことになるのです。

注目のメディカルツーリズム

メディカルツーリズムとは健康や医療を目的とした旅のことを指します。医療費が安い国へ渡航して、自国で承認されていない代替治療を求める人もいます。この産業は、世界的に数十億ドル規模で成長を続けており、タイでも近年急速な増加を示しています。タイがメディカルツーリズムとして人気な理由はいくつか考えられます。

まずは、高い医療技術と低額な医療サービスの提供です。タイの医療サービスは多くの場合、欧米のそれと同等以上のクオリティを保ちながら、費用は欧米の医療サービスの半分以下なのです。多くの医師は英・米国の医学の学位を取得しており、優れたケアを受けることができます。次に、トップレベルの医療施設と充実した設備です。医療サービスレベルの一つの指標となる「国際医療機能評価機関」には厳しい基準を設けられており、それによる認証(=JCI認証)を現時点で65箇所の病院が取得しています。その認証数は世界でもトップクラスに入り、最新の医療技術や機器が整備されているため、高度な医療手術が可能です。

次に、観光と医療を一体化したツアーです。タイは人気の観光地でもあるため、多くのツアーオペレーターは、医療施設とタイの観光スポットを組み合わせたツアーを提供しており、渡航者は治療を受けながらタイの美しい観光スポットを楽しむことができます。

低額で質の高い医療サービスと観光で人気を博しているタイのメディカルツーリズムですが、急成長した背景には、政府による積極的な支援と投資という後押しがあります。プロモーションの投資には年間数十億バーツをかけており、医療施設の認証プログラムである「ハラル認証」を設けるなど、イスラム教徒の顧客獲得にも力を入れています。こうした国をあげた取り組みにより、タイのメディカルツーリズムは世界との競争力を維持し、今後も需要の増加に伴って市場は拡大していくと予測されます。

今後の経済動向

タイ経済は、ASEANのハブ機能としての優位性、外資企業への恩典、外資企業の生産拠点としての機能、そして世界と肩を並べる注目のメディカルツーリズムにより、市場の拡大と成長を続けていますが、その分、変化も激しいものになっています。現状から今後の動きを予測することで、新たなビジネスチャンスを掴めるかもしれません。

消費市場としての可能性

タイでは好調な個人消費が、GDPを牽引しています。2023年第1四半期(1~3月)の実質GDP成長率(前年同期比)を需要項目別でみると、個人消費支出は5.4%増となり、前期の5.6%増に引き続き高い伸び率を示しています。

さらに、最低賃金の引き上げも約2年に1〜2回のペースで行われており、所得が上向きに推移することで、個人消費を支えています。2017年にはスマートフォンの普及率は約50%でしたが、2022年時点では98.8%まで増加したというデータからも、生活水準が高くなっていることがわかります。

さらに、タイの人口構成をみると消費意欲の強い現役世代の30代〜50代が一番多いことからも、このような生活水準の向上や所得層の変化は、消費市場の拡大につながることが期待されます。

一方で、タイは人口の伸び率が鈍化し、日本同様にASEANの中でも少子高齢化が進んでいる国のひとつでもあります。そのため、今後は中間層・富裕層に向けた、介護福祉サービスや関連製品にも参入するチャンスがあるといえます。

長期経済開発計画「タイランド4.0」

「タイランド4.0」とは、これまでのタイの経済社会の発展を3段階に区分し、今後目指す目標を第4段階(4.0)として示したもので、この先20年を見据えた長期的な計画です。経済のデジタル化とイノベーションを推進し、高付加価値経済へと変革することで、経済成長の加速・先進国入りを目指すという壮大なビジョンとなります。

デジタル経済の発展と新世代産業の育成をふたつの柱とするこの計画では、これまでの重工業や工業製品の輸出への注力ではなく、イノベーション主導型の経済成長を目指しています。そのため、重要とされる「ターゲット産業」10業種も、以下のようにハイテク産業へと変化しています。

ターゲット産業
  • 次世代自動車
  • スマート・エレクトロニクス
  • 医療・健康ソーリズム
  • 農業・バイオテクノロジー
  • 未来食品
  • ロボット産業
  • 航空・ロジスティック
  • バイオ燃料とバイオ化学
  • デジタル産業
  • 医療ハブとなる産業

タイ政府としては、現在ノウハウがある自動車産業や医療ツーリズムなどの既存産業を強化し、その延長として未来産業を育成してゆく構えであると考えられます。それには汎用IoTの推進など、社会全体のデジタル化は欠かせません。インターネットを介した経済社会のデジタル化は、タイでも急速に進んでいますが、ハイテク産業への移行には、まだまだ外国企業の知識や投資が必要です。開発能力が十分に備わっていない市場には、多くの日本企業にとって絶好のビジネスチャンスが転がっていることでしょう。

まとめ

タイ市場は、ASEANのハブとしての地理的利点を活かし、外資企業向けの税制優遇策を背景に、これまで持続的な成長を遂げてきました。中でも、外資企業の生産拠点や医療ツーリズムの推進による市場の拡大は顕著に進んでいます。今後もデジタル経済や中間層の増加による消費市場の発展が加速することで、さまざまな市場においてビジネスチャンスが生まれることが期待されます。タイ市場に対する深い理解と適切な戦略を持ってアプローチすることで、大きな成果を生み出すことができるでしょう。

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