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ベトナム市場を解明!成長の秘密とビジネスチャンス

海外進出
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ベトナムは過去数十年にわたり、目覚ましい経済成長を遂げてきました。国際市場における重要な役割も果たすようになり、東南アジア市場の中でも特に魅力的な国の一つになっています。現在では、多くのビジネスリーダーや投資家からも注目を集め、ベトナムへ進出する企業も増えています。しかし、進出には大きなチャンスがある一方で、それを成功させるとなると、市場への深い理解が必須となってくるのです。

この記事では、ビジネスの観点から見たベトナムの潜在的な価値を明らかにするとともに、ベトナムの経済成長の背景、市場の魅力、そしてこれからのビジネスチャンスについてご紹介します。

ベトナム市場の魅力

海外進出を目指す企業が進出先を決定するためには、より多くのメリット、つまり安心材料が必要となります。現在、進出先として注目されているベトナム市場にはどんな魅力があるのか、その背景とともにご紹介します。

人口とGDP

現在、ベトナムの人口は約9,946万人です。その数は年々増加しており、ASEANといわれる東南アジア諸国連合の中で3番目、世界では15番目に多い人口を抱える国です。平均年齢は約30歳と、特に若年層の人口が多いことで知られており、若い労働力の存在は、安価な人件費や労働市場の活性化に繋がっています。ベトナム政府によると、2025年には人口が1億人を突破するといわれており、労働市場のさらなる成長が期待されています。経済面では、ベトナムは過去数十年にわたり、平均して高いGDP成長率を記録しています。国際通貨基金(IMF)によると、ベトナムのGDPは年間平均約6%以上の成長を遂げており、東南アジアの中でも特に高い成長率を示しています。

また、国内GDPが増えるとともに、一人当たりのGDPも右肩上がりになっています。若年層が多いことも併せてみると、生産拠点としてのみならず、消費市場としても魅力が高まりつつあることは間違いないでしょう。

質の高い労働人口の増加

優秀な人材が多いこともベトナムの魅力のひとつです。社会主義国であるベトナムは、教育の機会均等とその普遍化に力を入れています。実際にベトナム人の優秀さを表す例として以下があげられます。

  • 東南アジア初等教育学力指標(SEA-PLM)2019:読解、筆記、数学の各項目で第1位
    -参加6カ国:ベトナム、ラオス、ミャンマー、マレーシア、カンボジア、フィリピン
    -東南アジア教育大臣機構(SEAMEO)と国連児童基金(UNICEF、ユニセフ)が公表
  • 国際数学オリンピック2020:獲得メダル数が105カ国中17位
    -高校生対象、参加105カ国
    -日本は18位
  • ABUアジア・太平洋ロボットコンテスト:第1~18回(2002~2019年)の優賞回数が第1位
    -アジア太平洋放送連合(ABU)が主催するアジア大洋州地域の大学対抗ロボットコンテスト

教育普及がもたらした成果だけでなく、ベトナム人労働者を抱える外資系企業からもその優秀さが評価されています。例えば、ジェトロの調査によると、進出日系企業が経営上の問題点として「従業員の質」を挙げる割合は、ASEANの中ではシンガポールの次に少ないという結果があります。また、ベトナムでは、情報技術、数学、そして外国語に積極的に取り組んでいることもあり、IT・通信・製造業など多様な業界で活躍することが可能です。

豊富な農業資源と観光資源

かつてベトナムには王朝があったことから、多くの遺跡などが世界遺産として残され、また長らく他国からの支配を受けた影響で、街並みや食文化に異国情緒が見られます。南北に細長い約1,650kmの国土は、海岸線、山岳地帯、熱帯雨林など多様な地形を持ち、北部、中部、南部によって気候が大きく異なるため、それぞれ独自の食文化が発展しました。このような歴史や食文化、豊かな自然景観を持つベトナムは、近年観光地として人気を集めています。

また、ベトナムは豊富な農業資源を持つことでも知られています。国土の約3分の1がデルタ地帯で、特に、メコンデルタと紅河デルタは、稲作やその他の農業に非常に適しています。現在、コメの輸出量は世界で2番目に多く、全体の約15%を占めており、コーヒーの輸出量は、ブラジルに次いで世界第2位です。ゴムの輸出量は世界第3位で、ゴム生産量の8.7%を占めています。他にも、カシューナッツ、胡椒の最大輸出国となっています。

ところが、ベトナムでは、生産された農産物のうち加工されるのは5〜10%に過ぎません。近代的な加工施設が少なく、処理過程のほとんどが手作業で行われるため、農家や関連業者の多くは、農産物を原料の形で輸出することになります。このように、ベトナムは経済成長しながらも、資源をビジネスへ活かしきれてはいないため、ビジネスチャンスを多岐にわたって見出せることでしょう。

ベトナム市場の変化

経済成長と世界のトレンドに伴い顕著に様変わりするベトナム市場は、ベトナム進出を視野に入れた企業にとって大きなビジネスチャンスであり、市場を選ぶ際にその変化は外せない判断材料となっています。では、ベトナム市場はどのように変貌を遂げているのでしょうか。

経済成長を促す「ドイモイ政策」

現在、経済成長をしているベトナムですが、ほんの40年程前までは、戦争が終結したばかりの貧しい国でした。南北統一後、民主主義から社会主義・共産主義体制になり、国の厳重な管理下に置かれた国民は、戦争の影響もあいまって、困窮を極めていました。そのような状況を変えるため、1986年にベトナム共産党によって「ドイモイ政策」が提唱されました。ドイモイ(Doi Moi)とは、日本語で「刷新」を意味します。

ドイモイ政策により、市場経済への移行、社会主義政策の緩和、国際経済協力への積極的な参入が行われました。特に、お金で物が買える「資本主義経済」を導入したことで、財産を持つことが自由になり、働けば豊かになるということから労働意欲も増し、金銭の価値観も一気に変化することとなりました。

社会主義政策の緩和は、遅れていた工業や農業を向上させ、1995年にはASEANへの加盟も果たしたのです。市場が拡大するだけでなく、海外資本の投資を受け入れることも可能になり、1988年には外国投資法を公布し、外資企業がベトナムで活動できるようになりました。

このように、ドイモイ政策による経済自由化は、ベトナム国内の起業家精神を刺激して中小企業の成長を促し、イノベーション促進、国内市場活性化、そして社会経済発展へ繋がっています。社会全体にも大きな影響を与え、貧困率減少、教育と医療サービスへのアクセス改善、国民生活の質の向上など、多方面でステップアップする後押しとなりました。ベトナム経済にとって転換点となったドイモイ政策は現在も続いており、更なる経済改革を推進しています。

中国からの生産拠点移管

現在、長期化する米中貿易戦争や、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスの拡大などによって、中国からベトナムへ生産拠点の移管が加速しています。

特に、電子機器・部品の多くが、中国から米国に輸出する際に高い関税が課されるなど、米国向け輸出の競争力が低下したことが影響し、電子産業界で生産拠点の移管が多く見られます。現在、電子機器関連(コンピュータ電子機器、スマートフォン、関連部品)が輸出額の31%を占めており、電子産業分野における輸出拡大が、ベトナムの経済成長を牽引しているのです。その多くに外資企業からの関心が寄せられているため、外国投資がベトナムの電子産業を先導しているといえます。

製造分野への投資は、新型コロナウイルスの影響によって件数は落ち込んだものの、額としては高い水準をキープしています。特に、2021年と2022年は、拡張投資額が増加し、外資企業による工場拡張や、生産ラインの増設などが多数見られました。

輸出品目別にみると、韓国のLGグループやサムスン電子のベトナム進出を契機に「電話機・電話部品」の割合が高かったのですが、米中対立が激化した2018年以降はその割合も低下し、「電子製品・電子部品」および「機械・機械設備」の比率が上昇しました。

輸出品を生産工程別にみると、最終工程を経た製品の輸出は停滞傾向ですが、部品など中間財は増加ペースにあります。その背景として、米国向けのパソコン部品と中国向けの集積回路の輸出拡大という影響があり、中間財の生産・輸出が拡大しているのです。

米国の貿易統計をみても、2019年以降はベトナムからの輸入が増加し、中国からの輸入は減少しました。東南アジア諸国の中で、ベトナムだけが輸入比率を上昇させており、中国に替わる生産・輸出拠点としてベトナムの存在感が高まっていることがわかります。

中国からベトナムへ拠点を移した企業として、日本の任天堂があります。任天堂は、主力のゲーム機である「ニンテンドースイッチ」の生産の一部をベトナムへ移したことを発表しました。米国企業では、アップルがワイヤレスイヤホン「AirPods」の生産を、ベトナムで本格化させました。家電大手の「TCL集団」のような中国企業でさえも、自国を選ばず、ベトナムにて自社スピーカーやヘッドホンなどの生産に踏み出しています。中国からの移管先として選ばれたことによって、ベトナムの経済が大幅に成長することとなりました。

グローバルなサプライチェーン

中国からの移管先として選ばれていることからも、グローバルなサプライチェーンの重要な中間地点として、ベトナムはその地位を確立しています。中国と隣り合わせていることもあり、部品調達がしやすく、中国が築き上げたサプライチェーンを活用することができるのです。また、中国の人件費が上昇する一方で、ベトナムでは質の高い労働者を低賃金で雇うことができ、工業団地借料も低いという点が、さらに魅力を高めています。

国際貿易においては、多くの自由貿易協定(FTA)を結んでいることも、大きなメリットとなります。FTAとは、2カ国以上の国や地域が、相互に関税や輸入割当など、貿易制限的措置を一定の期間内に撤廃、あるいは削減することを定めた協定です。 このFTAを活用し、関税額を抑えるため、ベトナムからの輸出を海外の顧客側が要求する、というケースがあります。

全方位外交の方針の下で、米中両国と良好な関係を保っていることも、プラスに捉えられます。ベトナムにとって米国は最大の輸出先であり、中国はそれに次いで第2位、かつ最大の輸入先でもあります。東南アジアの中心に位置するベトナムは、アジア太平洋地域の主要市場へのアクセスが容易であり、経済面でも米中両国と交流しやすい状況を築けているため、企業にとっても魅力的な立ち位置になっているのです。

ただし、急拡大する生産活動にインフラなどが追いついていない点もあるため、競争力を維持するためにも、電力供給やインフラ整備の対応が政府に求められています。

今後の経済動向

政策転換により一気に発展を遂げ、グローバルサプライチェーンとしての地位を確立したベトナムは、さらなる拡大と成長を続けています。しかし、発展し続ける一方で、変化も激しくなっています。現状から今後の動きを予想することが、新たなビジネスチャンスにつながるかもしれません。

急成長中のEC市場

ベトナムのEC市場は、国内外から投資が活発化する中で急速に成長しており、東南アジア内でも、最大のEC市場の一つとなっています。その拡大の背景には、3つのポイントがあります。

1つ目は、若者の人口です。ベトナムは先に述べたように、人口が年々増加し、1億人を目前にしています。その膨大な人口の中でも、60%が30歳以下であり、若者の人口が非常に多いことが特徴です。若年層は、新しいデバイスやサービスに適応する能力が高いため、EC市場の潜在的な顧客となっています。

2つ目は、インターネット普及率です。デジタル技術に抵抗がない若い世代が多いこと、デジタル社会へ対応するために国を挙げたインフラ整備などが起因し、インターネット普及率は増加を続けています。2022年時点では、ベトナム総人口の70%がインターネットを利用しており、2025年には81%に達すると予想されています。

3つ目は、スマートフォン普及率です。2022年時点で、ベトナムのスマートフォン普及率は63.1%、利用者数は6,137万人であり、世界トップ10にランクインしています。なお、日本は9位にランクインしていることを踏まえると、ベトナムのスマートフォン普及率はかなり高いことが伺えます。また、都市部での普及・利用が顕著でしたが、近年は農村部においても、スマートフォン利用が広がっています。

ベトナムの消費者リサーチサービス「Q&Me」を運営する株式会社Asia Plusの調査によると、ECの利用経験があると回答した都市部在住のベトナム人は67%で、そのうち、月に1回程度ECを利用するリピーターが34%含まれています。こうした調査からも、ベトナムのスマートフォンおよびインターネット利用者の大半は、ECを使用していることがわかります。 人口増加に伴い、EC市場はさらに拡大するでしょう。

消費市場としての可能性

ベトナムの消費市場は、その経済成長と人口動態の特性により、将来的に大きな可能性を秘めています。若い人口が多く、消費意欲が旺盛なため、さまざまな商品やサービスに対する需要が増加しています。特に、貧困層と富裕層の間にある中間層の拡大は、消費市場の成長を後押ししており、よりニーズが多様化し、洗練された商品やサービスの需要が高まっています。

中間階層の全人口に占める割合は、2000年当初は10%に満たない数字でしたが、現在は急激に成長し、40%程度にまで達しています。そして、今後10年間で75%まで拡大すると見込まれています。

この中間層の拡大は、消費動向に大きな変化をもたらしており、消費者は価格だけでなく、品質、ブランドイメージ、アフターサービスなど、購入に際して多角的な観点から商品を評価するようになっています。また、健康や環境に対する意識の高まりから、オーガニック製品、健康食品などの需要が増加しています。これらのトレンドは、食品、飲料、美容、ファッションなど、多岐にわたる産業で新たなビジネスチャンスを生み出していくことでしょう。

まとめ

ベトナム市場の魅力は、革新的な政策、若く活力ある人口構造、高いGDP成長率、優秀な労働力、そして豊富な農業資源と観光資源にあります。こうしたベトナムの特色が投資先としての関心を集め、更にはビジネスチャンスを広げる潜在力を同国が秘めていることを表しています。

EC市場の急成長や消費市場の可能性も、ベトナム経済の重要な側面です。若年層の消費行動や中間層の拡大は、新たなビジネスモデルや市場ニーズを作り出しており、今後も変化する消費者の購買行動への適応が求められます。

経済成長を続けるベトナムは、急速な発展にインフラ整備が追いついていないため、慎重な判断も求められますが、様々な分野で市場拡大が見込まれるため、海外進出先としては有望といえます。ベトナムは、持続可能な成長を目指す企業にとって、魅力的な選択肢となるでしょう。

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