人口増加や経済成長が進む東南アジアは生産拠点としてはもちろん、消費市場としても躍進しており、日本だけでなく世界中から注目が集まっています。一口に東南アジアといっても、国によって経済状況や進出のメリットには大きな違いがあります。今回は東南アジア各国の最新経済情報と特徴、進出する際のメリットを紹介していきましょう。
東南アジアに進出するメリット・デメリット
メリット
堅調な経済成長
東南アジアには、ASEAN(Association of South-East Asia Nations:東南アジア諸国連合)である10ヵ国に、東ティモールを加えた11カ国が含まれます。
アジア開発銀行によると、東南アジア地域の2022年GDP成長率は5.6%に達しており、日本の1.1%と比べて非常に高水準を保っています。
今後も人口の増加に伴う労働力人口や消費人口の増加が見込まれており、その堅調さから魅力的な市場になっていることが日本企業進出の大きな要因となっています。
豊富な資源
東南アジアの国々はインドネシアの石油や天然ガス、ベトナムの農産物や水産物など、ビジネスに直結する資源が豊富なのも魅力の1つ。近年では鉱物や農産物の輸出といった第1次産業にかわり、観光などの第3次産業に力を入れる国も増えていますが、現地の資源を活用することで輸入コスト削減につながるなど、日本から進出する企業にとって大きなメリットとなります。
外資規制の緩和
企業が海外に進出する際、大きな壁となるのが外資規制です。外資規制とは外国企業による国内企業への投資を制限するもので、安全保障や国内経済の保護を目的に行われます。しかし近年、東南アジア各国で外資規制の緩和がすすんでいます。
デメリット
インドネシアでは2021年の新法で自動車産業や鉱石を原料とする製造業、新エネルギー領域での緩和がすすめられ、フィリピンでも小売業の競争を促進させる狙いで各種規制が緩和されています。ベトナムでは逆に禁止対象の業種を明確化することで、外国企業が参入しやすくなっています。
インフラ整備の遅れ
人口増加や経済発展にインフラ整備が追い付かず、国によっては電力供給が不安定な地域や、交通渋滞が深刻なケースもみられます。特に電力は製造業にとっては死活問題になるため、進出前に現地の状況を把握しておく必要があります。
歴史的背景や宗教による文化の違い
海外進出するうえで文化の違いは重要な要素ですが、特にイスラム教徒が多い国では日本と背景が大きく異なるため、苦心する日本企業も少なくありません。食品メーカーではハラール認証の取得が壁になることも。さらに、都心と地方で格差が大きい、国の南北で文化が異なる、歴史的な名残で独自の社会習慣がある、といった課題にぶつかるケースもあります。
政治や経済が不安定
国や地域によっては政情や経済がまだ不安定で、クーデターやデモなどが起きる場合があります。そうなればビジネスはもちろん、従業員や資産が危険にさらされる恐れもあるため、最新情報に常に注意を払っておかなければなりません。
ビジネスにおける国別の特徴
ベトナム
ベトナム経済の最新情報
ベトナムはASEANでも有数の9747万 (2021年)にのぼる人口を抱えており、大きな魅力となっています。今後も人口増加は続く見込みで、消費市場としては非常に有望です。
1997年のアジア通貨危機で一時失速したものの、2007年にはWTO加盟を果たし、貿易の自由化も進められるなど、近年は安定した経済成長を続けています。貸出金利の引き下げや税制優遇措置も実施され、さらに一部の分野以外では外資100%進出も認められており、経済の競争力や生産性向上を国が後押ししています。
近年、中国への投資リスクを避けた海外企業から、アジア第2の拠点となる「チャイナプラスワン」の投資先としても脚光を浴びています。Appleや任天堂、アシックスといった世界有数の企業が中国からベトナムへと生産を移管するなど、ASEANの中でも著しい成長を遂げ、2023年第3四半期のGDP成長率は前年比5.33%となっています。
特徴・メリット
- 勤勉で技術力の高い人材が豊富
勤勉で技術力の高いベトナム人は、日本人との共通点が多い国民性だと言われています。ITリテラシーの高さや手先の器用さなど、特筆すべき点が多く、国民の平均年齢が28歳と若い労働力が多いことも魅力です。親日国であることもビジネスをするうえでポイントになるでしょう。
- 安価なコスト
ベトナムの物価は日本の約3分の1と言われており、人件費も国民の平均月給が日本の約10分の1程度なので、現地で原料調達および人材雇用を行えば、国内と比べて大幅にコストを抑えることができます。そのうえ先述したとおり、人材のスキルや労働意欲は高いため、多くの企業が魅力を感じています。
インドネシア
インドネシア経済の最新情報
人口2億7,000万人を有するインドネシアは、その巨大な市場から海外企業から注目を集めています。ただ、同国経済の特徴は「内需中心」であるため、運送業をはじめ分野によって外資が参入できない業種もあります。進出を検討する際には、自社の業種で外資100%の法人設立が可能かどうか確認しておく必要があります。また、労働者保護の意識が高く、いったん正社員として採用すると、解雇することがむずかしいため、非正規雇用の割合が比較的高くなっています。
GDPはASEANの中でトップの座を維持しており、2023 年第 3 四半期の国内総生産(GDP)の実質成長率は前年同期比4.94%増。地政学的にも中国や日本などアジアの経済大国と中東やアフリカとを結ぶ海上交通路であり、ASEANにおいても経済や文化、安全保障の面で重要な立ち位置にあります。
特徴・メリット
- 世界最大の親日国家
インドネシアは歴史的背景などから、「世界最大の親日国家」と言われています。宗教や文化に違いはあるものの、親日であることや日本文化への理解があることは、日本企業にとって大きなメリットとなります。
- 消費市場の拡大
ASEANの中で最も人口の多いインドネシアでは、この数年間で中間層が大幅に拡大しています。それに伴い、国内総生産のなかでも大きな割合を占める個人消費も増加し、中間層の消費拡大が市場および経済の成長を後押ししています。若年人口の比率も高く、今後ますます成長が見込めるだけでなく、親日国家であるという歴史的背景もあり、多くの企業が注目しています。
- 豊富な資源
広大な国土を持つインドネシアでは、天然ガスや石炭といった天然資源、農産物、水産物が豊富にあり、これらを活用した外国企業による事業展開が拡大しています。また、東南アジアの中でも今後ますますエネルギー拠点としての存在感が高まるとみられ、期待が集まっています。
タイ
タイ経済の最新情報
自動車、電子機器、農産物といった製品を世界中に輸出するタイの経済は、輸出依存度が高いのが特徴。そのため、為替レートの変動や貿易摩擦、新型コロナウイルスの影響などを受けやすく、GDPの変動も大きくなっています。2023年第3四半期のGDP成長率は1.5%で鈍化がみられます。
2015年に立ち上げられた独自の経済発展計画「タイランド4.0」は、重工業や工業製品からイノベーション主導のデジタル立国を目指す、同国の決意表明となっています。次世代自動車や医療、ロボット産業などの分野を強化し、2036年までに先進国入りすることを目標としています。
特に同計画の柱となるデジタル産業発展のため、タイ東部の3県(チョンブリ県・ラヨーン県・チャチュンサオ県)を特定投資優遇地域として開発する「東部経済回廊(EEC)」計画が進行中で、日本の経済産業省もこれに協力する覚書に署名しました。
特徴・メリット
- 安価な事業コスト
タイは人件費が日本の約25%と言われており、また物価も安いため、比較的コストを抑えた進出が可能です。さらに業種によっては投資や税制面での優遇措置がとられているほか、外貨保有規制といった金融面での制限もアジアのなかでは比較的緩いのも、利益を上げやすい要因と言えます。
- ASEAN諸国をつなぐ物流環境
東南アジア諸国の中心に位置するタイでは、2014年にはインドシナ半島の南部地域を東西にまたぐ「南部経済回廊」が整備されるなど、物流環境が改善されています。世界の各地域への航空便も多く、国際マーケットのハブ的な役割を担いつつあるタイに商機を見出す企業も少なくありません。
マレーシア
マレーシア経済の最新情報
13の州と3つの連邦特別区に3,200万人が暮らすマレーシアは、マレー系・中華系・インド系、さらにさまざまな民族が暮らす多民族国家です。20世紀の終わりごろから外貨導入政策や工業開発がすすめられ、電機産業および電子産業を中心に大きく発展しました。2023年第3四半期GDPは3.3%。2018年6月、それまでの物品サービス税(いわゆる消費税)を廃止し、T売上・サービス税(SST)を再導入しています。
ハラール先進国として知られるマレーシアのイスラム開発局の認証はもっとも厳しい水準だと言われ、これをクリアした商品や製品はASEANだけでなく中東やアフリカにも輸出されています。そのため、マレーシア政府は自国をハラールロジスティクスハブとして確立することを目指しており、今後同国が東南アジア地域の輸送拠点となる可能性も充分にあると考えられています。
特徴・メリット
- 親日国家
マレーシアは1980年代に「ルックイースト政策」で日本の文化やビジネスを自国に導入してきたこともあり、親日国家で日本への理解が深いため、日本企業が進出しやすいと言えます。日本語を話せる人も少なくないほか、欧米式の個人主義よりも集団としての利益を優先する姿勢は日本企業にとってもメリットです。
- 外貨規制緩和による投資環境の改善
近年、政権交代による政策変更もあり、外貨の資本規制が大幅に緩和されました。海外企業にフレンドリーな投資環境となっており、特に製造業、流通・サービス業においては100%外資が認められています(一部を除く)。こうした外資企業の積極的な誘致が、日本企業にとっても後押しになっています。
シンガポール
シンガポール経済の最新情報
2023年第3四半期のGDP成長率は前年同期比0.7%で、パンデミック後の経済が段階的に復興していると言えます。その要因は、おもに医薬品や医療機器といったバイオメディカルやテクノロジーイノベーション、電子商取引やフィンテックなどのデジタル経済の拡大です。いずれもコロナ禍で需要が増えた分野で、他にも電子製品や化学製品といった製造業も、世界経済の回復に伴って微増傾向を取り戻しています。
古くから外資企業の誘致に積極的だったシンガポールでは、国をあげての開かれた市場経済と外資誘致が特徴。安全保障やメディアなど一部の業種を除いて出資制限も業種制限もありません。1シンガポールドルで会社を設立することでき、最低資本金も存在しないほか、法人税も17%と低いことから、海外企業が進出しやすい環境となっています。
特徴・メリット
- 物流のハブとしての利便性
人口が少なく、国土も狭いシンガポールは古くから地の利を活かした物流拠点として発展してきました。現在も陸・海・空すべてのインフラが圧倒的に充実しており、物や人、情報技術が行き交うASEAN諸国だけでなく国際貿易の中心地となっています。
- 優秀な人材を生み出す教育制度
シンガポールでは徹底した実力主義をベースにした教育制度を敷いています。特に重点投資が行われている科学、技術、工学、数学の分野では、エリート教育を受けた優秀な人材が経済発展を支えているのも特徴。職業訓練やスキルアッププログラムも継続して実施されており、現代の経済ニーズに対応する競争力を維持しています。
フィリピン
フィリピン経済の最新情報
フィリピンの2023年第3四半期GDP成長率は5.6%。投資や消費が伸びる一方、世界経済の減速に伴う輸出と政府支出の減少が目立ちました。
元来、フィリピンでは外国資本の参入を厳しく制限しており、外資100%が認められる業種でも、事実上の規制があることも少なくありませんでした。それが今、大きく緩和されつつあります。2020年には外資規制に関する「外国投資法」「公共サービス法」「小売り自由化法」の緩和案が議会下院で承認され、2021年には小売自由化法での外資規制を緩和する第1840号法案が上院で可決されていました。それに伴い、これまで払込資本金が大幅に減額されるなど、積極的に海外資本を迎え入れようとする同国の方針がうかがえます。
特徴・メリット
- 海外企業への優遇措置と経済特区
前述のように、現在のフィリピンでは経済特区の存在をはじめ、外資企業に対して充実した優遇制度が導入されています。当局の機関に認められれば、法人所所得税や輸入関税の免税といった高い投資インセンティブを得られるだけでなく、雇用や手続きの面でも優遇されます。
- 生産人口の増加
フィリピンの人口は増加しており、特に生産人口が増えていることから、長期的に市場をけん引していくことが期待されます。豊富な労働力は消費や税収を支え、貯蓄や投資も活発に行われると見られており、さらなる経済成長が継続する期待感から多くの海外企業が進出しています。
東南アジア進出ならティーエスアイ
比較的安価なコストで豊富な労働力と市場にアプローチでき、新日国も多い東南アジアは、今後も日本企業にとって魅力的な進出先となるでしょう。ただし、ひとことで東南アジアと言ってもその国民性やビジネス風土、規制は国によって大きく異なります。失敗のない海外進出を目指すなら、各国の特徴や注意点、制度などに詳しい専門家に相談することが近道だといえます。
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