広大な国土と豊富な人口に恵まれたインドは、今大きく成長しています。今後は日本を抜いて世界3位の経済大国になるともいわれており、世界中から注目が集まっています。国際情勢などから中国からインドへと拠点を移す企業も多く、国内市場の縮小に悩む日本企業もまた例外ではありません。
ただし、インドには社会システムや歴史、宗教によって築かれた独自の文化があり、ビジネス慣習も日本とは異なります。また、外貨規制や法整備など、ビジネスの根幹にかかわる複雑な制度も少なくありません。インド進出を考えるのであれば、まずはこうした背景や基礎情報を知る必要があります。本記事では、インド市場に参入する際に知っておくべき基本情報と、実際に進出を成功させた事例を確認していきましょう
インドに進出する理由
インド経済は今成長期にあり、2035年にはGDPは10兆ドル(約1,000兆円)規模に達するとも言われています。人口もまた中国を追い越して世界第1位となり、さらに30歳未満の人口が多いことから、今後も生産人口は増加する見込みです。そんな成長著しいインドは、日本の企業にとっても魅力的な投資先だといえます。
さらに教育的な背景から数学や英語に精通した労働力が増え、また伝統的な身分制度に属さないIT業界にも多くの若者が集まることから、豊富な人材と彼らが立ち上げた精力的な地元企業やスタートアップの存在も魅力となっています。
インド進出のメリット
メリット①経済成長
これまで中国生産に集中してきた製造業を含め、今は東南アジアやインドへの拠点移管が進んでいます。なかでも、インドは「ポスト中国」と呼ばれ、輸出と内需の規模が拡大しています。2022年にはイギリスを抜いてGDP世界第5位に成長し、2029年には日本を追い越すとも予測されています。
1991年に経済や貿易の自由化へと舵を切ったインドでは、外国企業誘致のための政策を打ち出すなど前向きな政策を進めており、その成果が今になって表れているという見方もあります。生産人口の増大に加え、高いIT技術とグローバルビジネスに適した英語力を武器に、今後さらなる経済成長が見込まれています。
メリット②豊富な人口
インドでは人口増加が続き、2040年まではいわゆる「人口ボーナス期」が継続するとみられています。労働人口を占める若年層も多く、当面は市場拡大が見込まれています。
さらに2005年の時点では120万世帯とされていた富裕層が、2025年には950万世帯に増加すると予測されており、少子高齢化や人口減による市場縮小に悩む日本企業にとって魅力ある進出先となっています。
メリット③安価なコスト
アジア諸国では日本と比べて人件費が安いことが多いですが、インドも例外ではありません。製造業作業員の給与を比較すると、インドは中国の約50%。若年層の人口が増加していることから労働力は豊富です。
さらに、インドの若い労働者は英語力が比較的高く、また数学力を重視した教育環境にあることから、特にIT産業において優秀な人材が多いのも特徴です。コミュニケーションがとりやすく、グローバルなビジネスにも適した人材を低コストで雇用できることがインド進出を後押しする大きな魅力だといえます。
メリット④SEZ・特定の地域における優遇制度
インドでは外資に対する制限がある反面、輸出や雇用振興を目的とした特別経済特区(Special Economic Zone、SEZ)が設置され、免税などの各種優遇措置が適用される「みなし外国地域」として整備されています。一定の条件のもとで法人税や関税などに対する優遇措置が設けられています。
インド進出のデメリット
デメリット①不十分なインフラ整備
新興国全般に見られることですが、地域差や貧富の差が大きいインドではインフラ整備の遅れが大きなデメリットです。道路や港湾、水道、鉄道、空港、とりわけ電力インフラの未整備はビジネスにとって弊害ともいえます。
特に製造業や工場などでは送電ストップといったトラブルは、納期や長期的な戦略にも影響をもたらす問題につながりかねません。地域によっては自家発電設備の設置も検討するなど、現地の状況に合わせた対策を行うべきでしょう。
デメリット②時間にルーズ
日本では時間や締め切りを厳守することは信頼関係を構築するうえで非常に重要だと考えられています。しかし、インドではタイムマネジメントの感覚が日本とは大きく異なります。一説では、15分程度の遅れは遅刻だとみなされないとも言われています。また、前述のとおり交通インフラの未整備から、勤務時間までに出社できない、といったことも起きるようです。
仕事の進め方も日本とインドでは違いがあります。日本ではまず納期を決め、そこから逆算して仕事のペースを決めていくことが多いですが、インドではやるべきことを積み上げていくスタイルで、成果を上げるためには遅れてしまっても仕方ないという考え方なので、日本式のビジネス感覚では「時間にルーズ」という印象を持つこともあるでしょう。
デメリット③カースト・ジャーティ制度
インドと他国の最大の違いは、社会階層制度と職業世襲制度が相まった旧カースト制度の存在です。現在の憲法でカースト制度は禁じられているものの、いまだに人々の文化や生活に深く根ざしています。今や若年層が増え、従来のカースト制度に当てはまらないIT産業が発展したことから、徐々に形骸化しているものの、現地でビジネス展開するうえでは避けて通ることはできないでしょう。
企業や業界の独占や、既得権益の重視が残るほか、生活面でも社会的ネットワークの形として残っているため、常日頃から意識しておく必要があります。
インドに進出する日本企業の動向
2022年のデータでは、インドに進出している日系企業数は1,400社にのぼっています。コロナ禍の影響で事務所閉鎖や撤退、統廃合による企業数減少に見舞われましたが、一方で既存企業が新規拠点を設立など、拠点数は増加しています。昨年、日系企業の拠点数は前年から111箇所増え、合計で4,901拠点となっています。
業界別にみると、インドに進出する日系企業の約半数が自動車産業を中心とする製造業で、現地での新興国向け製品開発が進んでいるのがわかります。
また、南部のバンガロールを中心にIT関連企業の進出も目立ち、インドの優秀なIT人材の活用やアメリカとの時差を利用した拠点づくりも活発になっています。2022年のデータによると、インド進出企業の7割が黒字経営に成功し、今後も拡大を検討している企業も同じく7割程度にのぼっているといいます。
インドに進出する日本企業の成功事例
インドの自動車文化を変えた自動車メーカー:スズキ
インド進出に成功したさきがけともいえる企業が、自動車メーカーのスズキです。軽自動車を中心に生産するスズキは、まだインドに注目する企業が少なかった1980年から地道なビジネスを展開し、今やインドでシェアNo.1を誇っています。
その経緯を振り返ると、まずは1982年にインド国営企業とスズキの合弁会社を立ち上げ、現地での生産・販売を開始したところから始まります。当時、まだ低所得者が多く、自動車保有率が低かったインドでは、比較的購入・維持コストの低い軽自動車がマッチしたのです。
1990年代に入るとスズキは国営企業の株式の過半数を獲得し、子会社化。自社流に営業改革や販売網拡大を進めます。シェア50%を目指し、自動車購入前の潜在顧客開拓のため自動車学校事業を本格化させ、マーケティング活動を活発化させました。さらに近年では現地のスタートアップとの共同事業にも力を入れ、自らアクセラレーターをつとめ、課題解決につながるソリューションを持つスタートアップを各事業とマッチングさせることで、イノベーションを推進してきました。
同社では、実際に現地に足を運び、挑戦する姿勢を維持することを重視してきたといいます。遠隔からのインド進出はほぼ不可能、という言葉が示すように、日本からの駐在スタッフはもちろん、現地での人材雇用と育成に力を入れるなど、徹底したローカライズ戦略が成功の一因だとしています。
インドでの自家用車保有率はまだそれほど高くないため、今後さらに人口が増え、また経済成長に伴う中間層・富裕層拡大が見込まれるため、市場はさらに活性化すると思われます。
生活必需品の電動リキシャ市場をけん引するベンチャー:テラモーターズ
東京都港区に本社を置くベンチャー企業のテラモーターズは、電動のバイクやシニアカー、他にEV充電インフラ事業などを中心に製造・販売を行っています。バイクの国内市場はそもそも大きくないため、2010年の設立当初から海外進出を視野に入れ、今ではインドをはじめ、ネパールや台湾にも拠点を置いています。
同社では、交通インフラが、日本ほど整備されていないアジア諸国で比較的バイクへの依存度が高くなっていることに注目しました。特にインド都市部では自動三輪車(オートリキシャ)の乗り合いタクシーが重要な交通手段とされ、大気汚染などの環境問題から、オートリキシャの電動化に注目が集まっていることから、テラモーターズでは「電動オートリキシャ」の市場拡大を見据えて2014年に参入しました。
手を出しやすい価格はもちろん、環境への配慮やデザイン性など、日々の必需品である乗り物へのこだわりもまた、現地の人に選ばれる要因だったといえます。また、さらなる販売網拡大のため、2021年には現金購入できない低所得者向けのファイナンス事業を開始しました。現地の金融企業と連携し、無担保ローンを組めるようにしたことで他社との差別化をはかりました。
同社では現地とのスピーディな連携を重視しており、トップ自ら現地に赴くなど、ベンチャーならでは決定の速さを強みにしています。現在では、インドにおけるEVの充電拠点の設置・運営を広げるため、現地に新会社を設立するなど、さらなる拡大を続けています。
インドの社会インフラを支える電気機器メーカー:明電舎
東京都品川区大崎に本社を置く明電舎は重電機器、産業用システムといったエンジニアリングソリューションを提供する電気機器メーカーです。変圧器メーカーとしては国内でトップクラスの実績を誇っています。
住友グループ傘下にあることもあり、1960年代半ばから、タイやマレーシアといった東南アジア地域や中近東地域を中心に、社会インフラ整備の支援事業を進めてきました。しかし近年、成長するインド経済とそれに伴うインフラ整備ニーズの高まりを背景に、独自進出による拠点設立に転換したのです。
世界的なメジャー企業と現地の企業がシェアを占有する変電器市場において、明電舎ではインドにある変圧器製造会社に出資することで連結子会社化し、現地企業の持つ立地の強みを生かした販路拡大に努めました。そして出資比率を段階的に引き揚げることで完全子会社に成功。”メイデン”ブランドで事業展開を加速し、現地工場で生産した変圧器をインド国内の電力会社が運営する変電所に販売するほか、鉄道路線の変電設備に変圧器を多数納入するなど、インドの社会インフラを支えています。
同社では現地の科学技術大学に寄付講座を提供し、学生に対し日本基準のものづくり・安全・品質に関する教育を実施するほか、工場でのインターンシップや発電・変電の技術指導を展開しています。受講生の中から優秀な学生を自社に迎え入れ、コア人材を育成するなど、現地での教育・人材育成にも力を入れています。
海外進出のサポートならティーエスアイ
これからさらなる成長が期待されているインドは、ますます魅力的な市場となっています。今回インド市場に興味を持たれた方は、インドでビジネスをはじめる前に知っておきたい制度や事業展開の方法などを前回の記事で解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。
インドを含めた海外へのビジネス展開は、その国の特徴や注意点、制度など注意すべき点が多く、自社だけで進めると多くの時間と労力が必要になります。そのため、豊富な海外進出のサポート実績を持つ専門家へのご相談をおすすめします。ティーエスアイは、海外進出コンサルティング、現地市場リサーチや販売代理店探索、交渉サポートなどグローバル事業開発のベストパートナーとして日本企業の海外進出を支援しています。
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