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インドでビジネスを始めるなら!知っておきたいインド進出の基礎知識

海外進出
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今、インド経済は大きく成長しています。人口は中国を追い越して世界第1位となり、2035年にはGDPは10兆ドル(約1,000兆円)規模に達するとも言われています。さらに30歳未満の人口が多いことから、今後も生産人口は増加する見込みとなっています。そんな成長著しいインドには海外企業からも注目が集まり、市場の縮小が進む日本の企業にとっても魅力的な投資先だといえます。
ただし、インドには独自の社会システムや歴史、宗教によって築かれた独自の文化があり、ビジネス慣習も日本とは異なります。また、外貨規制や法整備など、ビジネスの根幹に関わる複雑な制度も少なくありません。インド進出を考えるのであれば、まずはこうした背景や基礎情報を知る必要があります。本記事では、外国企業がインド市場に参入する際の基本的な情報を確認していきましょう。

インドの外資規制

海外では各国が自国の利益や産業を守るため、さまざまな制度や規制を設けており、インドも例外ではありません。思わぬ業種や製品、成分が規制対象となることもあり、予期せぬトラブルを防ぐためには、法律や規制について知っておく必要があります。特にFDIに関する規制はインドに進出するうえで避けて通ることはできないでしょう。
FDIとは“Foreign Direct Investment”の略称で「外国直接投資」のことです。これは現地法人設立や設備投資など、現地で継続的に利益を得るための事業活動を指し、日本企業による進出の多くもこれに分類されます。インドでは政府が外資規制に関する政策を「統合版FDI政策」にまとめており、現地での事業展開する企業は、最新版である「2020年統合版FDI政策(2020年10月15日施行」を確認しておくことをおすすめします。

外国投資が禁止されている業種

2020年統合版FDI政策によると、以下の8業種への外国投資は禁止されています。

  • 宝くじ(民間・政府宝くじ、オンライン抽選など)
  • 賭博、カジノ
  • チット・ファンド(賭博事業)
  • ニディ会社(互助金融会社)
  • 譲渡可能開発権
  • 不動産業、農家の建設
  • タバコおよびその代替品から生成された葉巻などタバコ類の製造
  • 原子力および鉄道事業(認められている業務は除く)

主な産業の出資比率上限規制とガイドライン

外国投資が禁止されている分野の他に、認可ルートや条件、出資率に制限のある業種もあります。外国投資が条件付で許可されている業種は以下の通りです。

外国直接投資の認可については、政府当局による個別の事前認可が必要な「政府認可ルート」とそれを必要としない「自動認可ルート」の2種類があります。それを踏まえたうえで、代表的な業種についてガイドラインを解説していきます。 

通信サービス業

固定電話、携帯電話、関連付加サービスへの外資出資は100%まで可能ですが、49%以下の出資は自動認可、49%以上は政府による個別認可取得が条件となります。 
通信分野への外国直接投資は、通信局(Department of Telecommunications:DoT)により随時通達されるライセンス条件およびセキュリティー要件を、ライセンシーおよび投資家が遵守することが条件となります。ただし「その他のサービスプロバイダ」は自動認可ルートにより100%の外国直接投資が認められます。

建設開発:タウンシップ、ハウジング、インフラ整備建設

建設開発プロジェクトについては自動認可で100%まで出資が可能です。ただし、政府のガイドラインに従うことが条件です。プロジェクトを進める上でのフェーズは、それぞれ個別のプロジェクトとみなされます。なお、不動産事業や農家住宅の建設事業、移転可能な開発権のトレーディングに携わる企業には、外資は認められていません。不動産賃貸、不動産仲介については不動産業には該当しません。

商業

卸売業(中小企業からの調達を含む)およびキャッシュアンドキャリー(C&C)については、自動認可ルートで100%まで出資が可能です。卸売業では、取引日報の記録、ライセンス・登録の取得義務などが条件ですが、同グループ内の企業・業者への卸売も認められます。ただし、当該卸売が卸売事業の総取引高の25%を超えることは認められません。単一ブランドの小売業への投資と両立する場合、各々がそれぞれ要件を満たす必要があります。また、小売業とは会計帳簿を別に作成したうえで法定監査を受けなければなりません。

農業、畜産業、プランテーションセクター

以下の農業活動については、一定の条件を満たせば自動認可で100%出資が可能です。

  • 花卉、園芸、調節条件下で行われる野菜、キノコの耕作
  • 畜産、養魚、養殖、養蜂
  • 種子および職部整原料の開発・生産
  • 農業および関連分野に関するサービス

茶園、コーヒー園、ゴム園、カルダモン園、ヤシの木、オリーブの木の植林には、100%外資が認められます。
ただし、上記以外の農業・栽培分野および活動への直接投資は認められていません。

小売業

小売業(複数ブランド)

総合小売業への投資が可能で、出資比率は政府認可で上限51%。ただし、
・果物、野菜、花、穀物、豆類、生きた家禽(かきん)類・魚介類、その他肉製品を含む農水産品は、固有のブランド名がないものとする
・製品調達額の30%をインド国内の小規模産業(工場、設備への投資額が200万ドル以下)から調達する
などの条件に適応しなければなりません。

小売業(単一ブランド)

自動認可で100%まで出資可能。ただし、
・販売製品のブランド名が国際的に使用しているブランド名と同一である
・出資比率51%超の場合、製品調達額の30%をインド国内から調達する
といった条件をクリアする必要があります。

その他の業種の方も、自社の事業に対してどのような規制があるか必ずリサーチしておきましょう。詳細はインド商工省産業国内取引促進局のウェブサイトにて最新の情報をご確認ください。

インド国内の販売代理店を通じて商品を販売する場合

はじめてインドで事業を展開する場合、一から販売網を自社で開拓していくのはコストや時間がかかるため、すでにインド国内で顧客や販売網を持つ販売代理店を起用することで、より効果的なマーケティング戦略を立てることができます。以下に、販売代理店を通じて商品展開する際の主なステップを紹介していきます。

ステップ1:代理店スタッフと信頼関係を構築

まずは代理店の現地スタッフと信頼関係構築することが何よりも重要です。インドと日本では言語はもちろん歴史や文化的背景、宗教やそれにもとづいた生活習慣など、大きな違いがあります。まずはこうした違いやそこから生まれるビジネス文化のギャップを理解し、埋めるところから始めなければなりません。
特にインドの人々はまずビジネス上の関係よりも先に、個人間の関係を重視する傾向があります。ですから仕事の上の話だけでなく、家族や趣味、食などの雑談めいた会話(いわゆるスモールトーク)で一人の人間同士として理解し合うことが重要です。そのためにはある程度の言語スキルは必要であり、コロナ禍以後に主流派となっているオンライン会議だけにとどまらず、時には現地に足を運んでコミュニケーションをとり、信頼関係を構築していくことになるでしょう。

ステップ2:具体的な条件に関して事前合意をまとめる

信頼関係が構築できた段階で、徐々に具体的な契約について話し合っていくことになります。両者の条件をすり合わせつつ、互いの落としどころを探っていきます。その際、検討すべき条件の例は以下の通りです。
・独占営業権を付与するか否か…中長期的な関係構築には効果的ですが、販売代理店の規模などによっては売上が伸び悩む可能性もあります。
・コミッションの料率…代理店の営業努力を引き出すためにある程度、高い料率を設定することも重要ですが、後で下げるのは難しいため、契約期間ごとの見直しや売上状況に応じた変更などの条件を入れることも検討します。
・守秘義務の規定…インドでは日本よりも「守秘義務」への意識が薄いことが多いため、守秘義務違反が発生した場合の損害賠償などについて事前に決めておくことが重要です。
・契約期間や契約解除条項…長期的な信頼関係を目指しつつ、市場の状況などによって契約締結時の条件を見直すことが必要です。また、契約違反があった場合に契約解除できるよう条項を盛り込んでおくことも忘れてはいけません。

ステップ3:代理店との契約締結、その後の営業支援

事前合意がなされたら、その内容にもとづいて弁護士と相談しながら契約締結に進みます。実際に契約書を作成する上で、事前合意で決めた内容を再検討する必要に迫られることも想定されますが、その場合も粘り強く互いの理解と落としどころを探っていきます。
契約締結が完了した後も代理店に任せきりにするのではなく、販売状況や顧客からのフィードバックにも基づき、販売戦略やマーケティング方法を検討する必要があります。また、効果的な広告宣伝活動をアドバイスするなど、継続的に代理店をサポートしていきます。まずは現地の代理店が「この製品を多くの顧客に販売したい」と意欲を持てるような関係性を構築・維持していくことが成功のカギとなるでしょう。

インド国内に販売拠点や製造拠点を設立する場合

代理店などを使わず、自社で販売拠点や製造拠点を設立する場合、ブランド力の確立や顧客からのフィードバックを直接受けられるといったメリットがあります。ただし、インドでは海外企業に対する規制があり、進出形態によって活動範囲や業務範囲が異なります。以下に、それぞれの形態での特徴と注意点を紹介していきます。

現地法人

現地法人には公開会社と非公開会社があり、インド企業省インド登記局から認可を得たうえで法人設立していくことになります。現地法人の場合、活動範囲は原則自由で、定款に記載された事業目的の範囲であれば大きな規制はありません。また、本社以外からの資金調達や不動産取得も認められています。
日本企業の場合、自社のみで非公開会社を設立することも少なくありませんが、独力販売網・顧客構築が難しい場合は現地企業との合弁会社を設立するケースもあります。いずれの形態でも、設立後に多くのコンプライアンス関連手続きがあるため、現地への進出に詳しい専門家や現地企業と提携して進めていくことが有効です。

支店

支店の場合、外国法人として進出することになるため、外国為替管理法にもとづき、インド準備銀行から認可を取得することになります。その場合、直近5年間の黒字や10万ドル以上の純資産がある、といった設立条件をクリアしていなければなりません。
あくまで、日本企業の代理としてのサービス提供となるため、事業活動は原則として営業・販売活動に限定され、直接的・間接的ともに製造活動は認められていません。資金調達についても本社からの送金は認められているものの、借り入れは禁じられています。

駐在員事務所

現地法人や支店よりも設立・運営コストが抑えられる反面、支店よりもさらに活動内容が制限されており、営業活動や商業活動は一切禁じられています。そのため、あくまで調査目的や現地企業との連絡窓口といった役割として設立されることが多くなります。設立条件は直近3年間の黒字と、5万ドル以上の純資産を所有していること。資金調達は支店同様、本社からの送金のみ認められています。

リミテッドライアビリティーパートナーシップ(LLP)

LLPは有限責任事業組合のことです。2008年にLLP法が設立したことにより、インドでは会社と同様の独立した法人として認められています。会社との大きな相違点は「所有」と「経営」の区別がなく、パートナーが所有権を持ち、経営も担うことができる点です。さらに2015年に規制が緩和され、外国からの直接投資が100%認められることになり、外国企業の進出形態として注目が集まっています。
活動内容に特に制限は設けられていませんが、資金調達は株主による出資はできず、パートナーとして出資することになるため、投資家などから好まれないことが多いのが現状です。

プロジェクトオフィス

現地でプロジェクトを実施する目的で設立されるのがプロジェクトオフィスです。そのため、活動内容に関しては該当のプロジェクトに関連する内容に限定されます。さらに、事前にインド国内企業と契約を結ぶことが設立承認の条件です。大規模な建設事業やインフラ構築が想定されており、プロジェクト終了後は撤退しなければなりません。出資は本社からの送金に限られ、借り入れは不可となっています。利益についても分配などは行わず、残金は本国へ送還することになります。
このように、販売代理店を使わずにインドに進出する場合、その形態は数多くあるものの、制限が課せられているものが少なくないため、現地法人の形をとる企業が最も多くなっています。

インド進出で気をつけるべきポイント

どのような形態にしろ、日本企業がインドに進出するにはメリット・デメリットが存在します。それを理解し、慎重に検討し、適切な対応策を講じることがビジネスの成功につながります。主なメリット・デメリットを以下で紹介していきましょう。

インド進出のメリット

「ポスト中国」と呼ばれるほどの経済成長

これまで中国生産に集中してきた製造業を含め、今は東南アジアやインドへの拠点移管が進んでいます。なかでも、インドは「ポスト中国」と呼ばれ、輸出と内需の規模が拡大しています。2022年にはイギリスを抜き、GDP世界第5位に成長し、2029年には日本を追い越すとする予測もあります。
さらに、インドでは人口増加が続き、特に労働人口を占める若年層が多いことから、当面は市場拡大が見込まれています。少子高齢化や人口減による市場縮小に悩む日本企業にとって魅力ある進出先であり、多くの企業がインド進出に乗り出しています。

経済特別区と税制優遇制度

インドでは外資に対する制限がある反面、特定分野の投資には税制面で優遇措置が用意されています。特に研究開発部門については、一定の条件をクリアした企業に10年間の法人税非課税措置や研究費用をもとにした申告控除といった制度があります。
また、輸出や雇用振興を目的とした特別経済特区が設置され、免税などの各種優遇措置が適用される「みなし外国地域」とされています。

人件費が抑えられる

アジア諸国では日本と比べて人件費が安いことが多いですが、インドも例外ではありません。製造業作業員の給与を比較すると、インドは中国の約50%。若年層の人口が増加していることから労働力は豊富です。ビジネス上、英語が堪能なためコミュニケーションがとりやすいことも相互理解には有益だといえます。

デメリット

根強い「カースト制度」の名残

インドと他国の最大の違いは、社会階層制度と職業世襲制度が相まった旧カースト制度の存在です。現在の憲法でカースト制度は禁じられているものの、いまだに人々の文化や生活に深く根ざしています。今や若年層が増え、従来のカースト制度に当てはまらないIT産業が発展したことから、徐々に形骸化しているものの、現地でビジネス展開するうえでは避けて通ることはできないでしょう。
企業や業界の独占や、既得権益の重視が残るほか、生活面でも社会的ネットワークの形として残っているため、常日頃から意識しておく必要があります。

インフラの未整備

新興国全般に見られることですが、地域差や貧富の差が大きいインドではインフラ整備の遅れが大きなデメリットです。道路や港湾、水道、鉄道、空港、とりわけ電力インフラの未整備は大きな弊害です。特に製造業や工場などでは送電ストップやトラブルを想定し、地域によっては自家発電設備の設置も検討すべきでしょう。

宗教に基づくビジネス文化の違い

ヒンドゥー教、イスラム教、キリスト教、仏教など他宗教国家であり、多民族国家でもあるインドでは言語も多様で、複数の言語が使われています。地域によって文化の違いも大きく、価値観や消費者の好みも異なります。商品設計する際やビジネスを展開する際は、その点を考慮しなければなりません。特に現地企業とパートナーシップを結んだり、代理店契約を行ったりする場合は、相互理解に時間をかける必要があります。
はじめてインドに進出する場合は、こうしたトラブルを防ぎ事業を成功に導くため、現地に詳しい専門家に相談することをおすすめします。日本にいては想定できないような提案や、過去に実際に起きた事例をもとに的確なアドバイスを得ることができるでしょう。


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