海外進出決定後の流れ
前回は新規参入を検討する企業の方向けに、海外進出するうえでのメリットやデメリット、手順や手法など知っておくべきノウハウをご紹介しました。今回は海外進出を決めた後にすべきことと運営の流れを詳しく解説します。
進出する国や展開する事業によって確認しておくべき事柄が異なりますので、本記事で海外進出決定後の流れをイメージし、自社の海外事業進出を検討する際にぜひお役立てください。前回の記事は以下のリンクからご覧いただけます。本テキストとあわせてご覧いただくことで、海外進出の全体像を掴んでいただけますと幸いです。
事前準備
資金調達
・必要コスト
進出先の市場や業種によって必要となるコストは異なりますが、主な費用の種類とその概要をご紹介します。
- 法人設立費用
海外での法人設立や登記に関連する費用がかかります。法人の種類や形態、進出国や地域の法律や制度によってかかる費用が異なるため事前の調査で確認しておくことが重要です。 - オフィス・施設費用
海外にオフィスや工場を設立する場合、賃貸費用、建設・改修費用、家具や設備の導入費用がかかります。人気エリアでは不動産価格や賃料が高騰していることもありますので前もって検討しておく必要があります。 - 人件費
海外の拠点で従業員を雇用する場合、給与、リクルーティング費用、トレーニング費用などがかかります。コスト削減が期待できる新興国でも近年、人件費が高騰している国もあり、現在は低水準であっても急上昇する可能性もあるので、長期的な視点で考えておきましょう。 - 運送費用
製品や原材料の輸送が必要な場合、輸送費や税関手続き、保険、倉庫費用などがかかります。実際に運用が始まった際のコストを見積って確認しておきましょう。 - 税金
税制や税率は国によって異なり、進出先の法律とともにその国と結んだ租税条約を確認します。海外事業における税金の計画を策定しておくことが重要です。 - 専門家費用
海外進出の計画と実行において、コンサルタントや弁護士や会計士などの法律専門家からのアドバイスを受ける場合、それに関連するコストがかかります。現地に精通した専門家に依頼することでスムーズな準備と手続きを行うことができます。
・資金調達の方法
現地法人の設立や運営費用など海外進出には多額の費用がかかります。必要な資金について調達する代表的な方法を3つご紹介します。
- 融資(親子ローン)
民間金融機関や政府系金融機関による融資制度を活用する方法があります。海外で子会社を立ち上げる場合、現地国で資金調達するのではなく、日本の親会社から借入を行う親子ローンで資金調達する場合が多くあります。その他、現地法人が現地の金融機関から融資を受ける手法として、スタンドバイL/Cもあります。 - 助成金・補助金
進出先国や地域によっては、新たなビジネス展開を支援するための助成金や補助金が提供されることがあります。これらの資金は特定の条件を満たす必要がありますが、コスト軽減の手段として利用できます。 - ベンチャーキャピタルからの出資
ベンチャーキャピタルは、成長を目指す未上場の新興企業に対して投資や支援を行う投資家やファンドです。ベンチャーキャピタルからの資金調達は、事業拡大や技術開発などに活用されます。
法規制の確認
海外進出の準備の一環として、法規制の確認は非常に重要です。進出先国の法律や規制を理解し、順守することはリーガルリスクを軽減し、スムーズな事業展開を実現するために欠かせません。各項目ごとに法規制の確認に関する詳細をご紹介します。
- 輸出入関連
進出先国の輸出入規制や関税、通関手続きに関する情報を確認します。特に、産業製品や技術の輸出には制限やライセンスがかかることがあります。また、輸出入手続きのスムーズな遂行に必要な書類や証明書類も確認しましょう。 - 海外投資関連
進出先国での外国企業の投資に関する法律や規制を確認します。海外直接投資(FDI)に関するルールや手続き、資本の移動に関する制約などを理解することが重要です。 - 税務関連
進出先国の税制を理解し、税金の申告と支払い手続きを適切に行うことが求められます。法人税、所得税、付加価値税(VAT)、関税など、各種税金に関する情報を把握しましょう。また、国際的な税務ルールや二重課税を避けるための租税条約も確認します。 - 労働法規制
進出先国の労働法や雇用規則を確認し、従業員の雇用契約、労働条件、賃金、労働時間、労働組合のルールなどを理解します。労働法に対する順守は、従業員との関係を円滑に保つために不可欠です。 - 知的財産権関連
進出先国での知的財産権(特許、商標、著作権など)の保護と遵守について確認します。地域ごとに知的財産権の取り扱いが異なることがあるため、自社の知的財産を守るための対策を検討します。
これらの法規制の確認は、国や地域ごとに異なるため、地元の法律専門家や国際法律事務所のアドバイスを受けることが賢明です。進出先国の法律や規制に準拠することで、違法行為やリスクを最小限に抑え、成功するための基盤を築くことができます。
実行段階
マーケティング戦略
実際に海外市場に展開する際には、これまで国内市場で行っていたマーケティング活動とは異なり、進出する国や地域に合わせて戦略を策定する必要があります。海外マーケティングとは、自社の商品やサービスを海外で売れるようにするための仕組みを作ることです。日本国内で販売してきた製品・サービスが海外でも同様に受け入れられるかどうかは、現地の文化や習慣、競合他社の存在など調査してみないとわからない事実が多く、念入りな事前調査と進出国や地域に合わせたマーケティング戦略を策定することが重要になります。
海外進出におけるマーケティング戦略策定の流れをご紹介します。
- ブランド戦略の構築
進出先国の文化や価値観に合ったブランドメッセージやアイデンティティを構築することが重要です。自社の強みとターゲットのニーズをすり合わせたブランド戦略は、成果が出るまでに相当な時間を要する長期的な取り組みであることを理解しておくべきでしょう。 - マーケティングチャネルの選定
適切なマーケティングチャネルを選定することで、ターゲットオーディエンスに効果的にアプローチすることができます。進出先国の市場特性や消費者の傾向を考慮し、SNSや動画を利用したオンライン広告やテレビ・ラジオ広告、新聞や雑誌などのプリント広告を検討します。海外でもインターネットやスマホを利用するユーザーが増え続けており、WEBマーケティングが用いられることが多くなっています。 - コミュニケーション戦略の策定
ターゲットオーディエンスとの効果的なコミュニケーション戦略を構築します。異なるチャネルを活用して、ブランドの価値を伝え、顧客との関係を築きます。例えば下記のようなチャネルが利用されます。
・広告
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌、デジタル広告などの広告媒体を利用して、製品やサービスの魅力を強調します。テレビや新聞といったマスメディア広告は徐々に少なくなっていますがまだ高いシェアを占めています。一方、インターネットの普及が進み、SNS広告やYouTubeなどのオンライン動画広告が急拡大しており、デジタル広告が主流となってきています。
・パブリックリレーション
現地のメディアとの関係を構築し、プレスリリースや記事掲載を通じて知名度を高めます。現地メディアの要求に合わせてローカライズした内容を作成することが重要となります。
・ソーシャルメディアマーケティング
Facebook、Instagram、X(旧Twitter)、LinkedInなどのソーシャルメディアを活用して、ブランドのプレゼンスを強化します。国や地域によって利用するSNSの種類や利用率が異なるので事前に情報収集する必要があります。進出国で人気のSNSを使用したマーケティングを行うことで、効率的な顧客獲得につながるでしょう。
・コンテンツマーケティング
ブログ記事、メルマガ配信、ビデオコンテンツなど有益な情報を提供するコンテンツを通じて、顧客とのエンゲージメントを高めます。ターゲット国に詳しい人材が担当することで有効なマーケティング活動を行うことができます。
・イベントや展示会への参加
地域のイベントや展示会に参加し、直接顧客と交流します。実際に顧客や見込み客の声を聞くことができるため、情報収集や市場調査の役割を兼ね備えつつ、うまくいけば商談につながる可能性もある有効な手段となります。
組織体制の構築(人材確保)
海外進出にあたり、事業計画をもとに現地事業の運営体制を実際に構築していきます。現地での営業活動体制やITや人事・総務・経理など組織体制を整えます。組織体制構築、人材確保の方法として、主に以下の5つが検討されます。
- 社内育成
海外進出をする際には、現地での事業展開に必要なスキルや知識を社内の従業員に育成することが重要です。これには、海外進出に関するトレーニングや文化・言語の理解を含めることがあります。また、本社から派遣されるスタッフにも、現地のニーズに合わせたトレーニングを提供することで、適切なサポートを行うことができます。 - 現地採用
現地の人材を積極的に採用することで、地域の文化や市場に対する洞察を得ることができます。現地採用の利点は、地域のネットワークを持つ人材を活用できることや、現地の法律や規制に精通した人材を確保できることです。しかし、適切な採用プロセスや人材のトレーニングが必要です。 - グローバル採用(リモートワーク)
海外進出時には、リモートワークを活用して世界中の優れた人材を採用する選択肢もあります。特に技術系や専門家の場合、物理的な拠点に依存せずに働くことができるため、国際的なチームを構築するのに役立ちます。コミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールの活用が重要です。 - パートナーシップ
現地の企業や団体と提携することで、市場理解やネットワークを得ることができます。パートナーシップにより、地域の専門知識やビジネスコネクションを共有し、事業展開をスムーズに進めることができます。ただし、適切なパートナーの選定や契約条件の明確化が必要です。 - 外部コンサルタント、専門家
海外市場への進出には、地域のビジネス環境や規制、文化の理解が不可欠です。外部のコンサルタントや専門家を活用して、市場調査や戦略策定、法的なアドバイスを受けることで、失敗リスクを軽減できます。適切な専門家の選定と信頼関係の構築が重要です。
リスク管理
海外進出時には日本では想定しなかった事態に遭遇することがあります。海外では文化や商習慣、法制度、雇用体系など国内とは大きく異なり、場合によっては撤退を余儀なくされるケースもあります。問題の発生や重大化を防ぐために事前にリスクを把握し、進出計画に合わせたリスク管理が重要になります。海外進出で起こり得る主なリスクは下記のような3つがあげられます。
- カントリーリスク
国や地域の政治、経済、社会的な状況によって影響されるリスクです。具体的には、政治情勢の不安定さや通貨の不安定性、インフレなどによる経済的リスク、文化的な違いや宗教的な問題などの社会的リスクといった様々な要因があります。カントリーリスクを管理するためには、企業は地域情報の収集と分析、政治的・経済的状況のモニタリング、リスク分散、保険などの手段を活用します。 - セキュリティリスク
企業の資産や情報、従業員に関する物理的またはデジタルの危険に関連するリスクです。治安の悪さやハッキング、サイバー攻撃といった危険もあります。セキュリティリスクを軽減するために、企業は適切なセキュリティ対策、トレーニング、予防策の実施、ガイドラインの整備などを行います。 - オペレーショナルリスク
実際に事業を行う場面で発生するリスクであり、サプライチェーン、人材、テクノロジー、システムなどに影響を与える可能性があります。供給遅延や輸送問題、現地従業の採用と管理、コミュニケーションの問題や現地法律・規制への適応など様々な問題が起こりえます。
これらのリスクは、海外進出において企業が成功するかどうかに大きな影響を与える可能性があります。したがって、リスク管理は戦略的なプロセスであり、継続的なモニタリングと対策を講じつつ機敏に対応することが成功への鍵です。
進出後
モニタリング
企業の海外進出後のモニタリングプロセスは、ビジネスの成功と持続的な成長を確保するために非常に重要です。以下に、海外進出後のモニタリングに関連する4つの主要なステップについて詳しく説明します。
ステップ1:目標とKPIの設定
海外進出プロジェクトの成功を評価するために、まず最初に明確な目標とKPI(キーパフォーマンスインジケータ)を設定する必要があります。目標は具体的で測定可能でなければならず、例えば市場シェアの増加、売上高の向上、収益性の向上などが考えられます。KPIはこれらの目標を達成するために測定され、進捗を確認するのに役立ちます。
ステップ2:レポーティングとデータ収集(顧客フィードバックの収集)
データはモニタリングプロセスの中核です。海外進出の成果を評価するために、適切なデータを収集し、レポートを作成する必要があります。これには、財務データ、売上データ、市場シェア、競合情報などが含まれます。また、顧客フィードバックを収集し、製品やサービスの品質向上に活用することも重要です。
ステップ3:レビューと分析
定期的なレビューとデータの分析は、進捗状況を理解し、問題を特定するのに役立ちます。このプロセスでは、KPIの達成度や進捗状況を評価し、どの分野で成功しているか、どの分野で改善が必要かを特定します。市場動向や競合状況をモニタリングし、適切な調整を行います。
ステップ4:アクションプランの策定と実行
レビューと分析の結果をもとに、改善策やアクションプランを策定します。これは、市場戦略の調整、製品の改善、サービスの最適化、新たな市場への進出計画などを含みます。策定したアクションプランを実行し、進捗状況を管理していきます。
以上のステップを継続的に実行し、海外進出プロジェクトの適応力を高め、競争力を維持し続けることが重要です。また、柔軟性を持ちつつ、市場状況や環境の変化に対応する能力も求められます。
海外進出のサポートならティーエスアイ株式会社
ティーエスアイ株式会社は、海外進出コンサルティング、現地市場リサーチや販売代理店探索、交渉サポートなどグローバル事業開発のベストパートナーとして日本企業の海外進出を支援しています。海外進出の方法の一つとして海外企業のM&Aや海外スタートアップ企業への投資という手段もあり、海外企業のM&Aや投資においてディールソーシングから面談セッティング、DD、交渉、クロージングまでワンストップでサポートします。