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海外進出におけるベトナム企業のM&Aという選択肢

東南アジア
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2021年における事業拡大先としてアジアNo1(ジェトロの調査より)にランクインしているベトナムは、「起業国家」を目指し行う包括的な国家政策により、今後さらなるスタートアップエコシステムの発展が予想されます。

現在縮小傾向にある日本市場からの事業拡大手段として有用な海外M&Aを検討する上で、ベトナムは必ず注目すべき国の1つです。

今回は、数多くの日本企業のベトナム進出を支援してきた実績を元に、ベトナムを含む海外進出の検討を始めた企業様向けにM&Aのポテンシャルや、そのノウハウを解説します。

(2022年10月26日に開催した、「海外進出を通じた事業拡大の基本的な考え方とM&Aの活用~事業拡大先アジアNo1のベトナムでの事例紹介~」セミナーの内容を抜粋してご紹介します。)

海外進出手法の選択肢としてのM&A

M&Aの主な目的

注目されている海外M&Aですが、その目的の多くは様々です。
事業承継問題の解決策の一つとしてM&Aが注目されていますが、それ以外にも以下のように様々目的があります。全体に対する割合は多くないものの、海外進出の一手段としてM&Aを選択する企業は少なくありません。

日本企業の海外企業に対するM&Aの動向

事業承継問題を背景に、日本国内のM&A(日本企業による日本企業の買収)件数が増加しています。一方で、海外での事業展開を目的にした日本企業による海外企業のM&Aも、実は2016年に635件、2017年は672件、2018年は777件、2019年は826件と増加しています。2020年は557件とコロナの影響により大きく件数が減少しましたが、2021年には625件とすぐに回復しています。

海外事業拡大先の国トップ4

M&A以外も含まれていますが、現在海外事業拡大先として注目されている国のランキングをご紹介します。

かねてから、チャイナ・プラスワンによる生産拠点移転先としてベトナムは有望な国でした。多くの国の実質GDP成長率は前年比がマイナスであった2020年でも、ベトナムは2.9%とプラス成長を記録しています。そのような状況を踏まえ、2021年にJETROが行ったアンケートではベトナムが中国を抜いてアジアにおける事業拡大先として一位になりました。

日本企業が検討する主な海外進出方法

海外進出には様々な手法がありますが、それぞれメリットデメリットがあります。

それでは主な海外進出手段である、「現地法人設立」「M&A」「JV(ジョイントベンチャー、合弁企業)」の3つを詳しく見ていきましょう。

現地法人設立は費用も少なく実行しやすいですが、事業を一から立ち上げることになるので時間がかかります。M&Aは初期費用と追加費用もかかりますが、既に事業基盤がある会社を活用することになるので、事業拡大にかかる時間の短縮になります。JV(Joint Venture、合弁企業)は場合にもよりますが、比較的初期費用も少なく事業立上げのスピードも速いです。一方で、他企業との共同運営となるので、企業運営の複雑さは避けて通れません。また、M&AやJVの場合、100%外資系企業としては取得できないライセンスを取得できる可能性があります。欧米企業では積極的にこういった戦略をとっているところもあるようです。

また、上記以外にも国によって異なる外資規制に対応しなければならないので注意が必要です。

海外進出方法としてのM&A

海外企業のM&Aは、大手企業だけが取れる選択肢ではありません。
費用・ノウハウ・実行力など多くのリソースが必要な手法であるため、検討できる企業は限られていますが、売上規模が500億円未満の企業もM&A戦略の策定を行っているケースも多いようです。

ティーエスアイ株式会社の支援事例

エネルギー業界で65年以上の社歴を有する日本企業は今後の市場縮小を懸念され、弊社にご相談いただきました。

将来的に日本の市場の縮小が見込まれている中で、市場が縮小しきる前に海外市場への展開をしたいという危機感を強くお持ちでした。そこで、提携候補先のベトナム企業の調査と精査を行い、特に有望な企業とお引き合わせを行い、取引の包括的なサポートを通じて資本参加とJVの設立に至りました。今後は共同で、ベトナムのエネルギー分野における小売り事業を展開していく予定です。

彼らにとっては一から市場を開拓するのではなく、営業基盤をもっている現地企業と共同で事業を運営することで、
・大幅なスピードアップ
・現地商習慣に基づくノウハウの獲得
の実現に繋がりました。

日本企業の海外進出手法としてM&Aは有望ではあるものの、多くの初期費用がかかり、同時にリスクも高い手法です。また、文化、商習慣、会社法、規制、言語など乗り越えなければならない壁も多くあります。そのため元々の目的を達成するための手段としてM&Aが最適かどうか、戦略に沿って検討することが重要です。

ベトナムの企業のM&A ~日本企業とは異なる制度や税金・外資規制とは~

ここからはベトナムへの海外進出を検討する上で、抑えておくべきベトナムの「企業制度」「税金・外資規制」について解説します。

ベトナムにおける会社の制度

組織体制

日本企業とベトナム企業では組織体制が異なります。特徴的な肩書として、「会長」と「法定代表者」があります。会長は日本の会社法上認められている肩書ではありませんが、大きな力を持っているケースが多いです。一方で、会長はベトナムの会社法上認められている肩書ですが、その権限は限られています。取締役会や株主総会などの会議で議長を務めるという権限があるのみで、基本的にはそれ以上は他の取締役と同じ権限です。
また、ベトナムには「法定代表者」という肩書があります。これは例えば、法的拘束力がある契約書にサインをすることができる人ということになりますが、代表取締役がこの役割も担う事が実務的には多いようです。

株主保有割合による株主権利

日本と同様、議決権の割合によって株主の権限が変わります。キーポイントは「35%」です。35%以上のシェアを持つことで、特別決議を否決できるようになります。ただし、この割合は定款によって変えられていることもあるので、個別の精査が必要です。また外資規制により最大保有数が制限されている事業分野もありますので、規制面の精査も必要になります。

事業登録(外資登録とライセンス)

ベトナムでは会社を設立する際に、分野ごとに投資登録証明書(IRC)と企業登録証明書(ERC)というライセンスの取得が必要になります。まずIRCを取得しますが、そのためには事業内容を決めておかなければなりません。また、分野によってはライセンスの取得に1年以上などの時間がかかることもあるため、早めの早めの準備が重要です。さらに、業種によっては外資規制がある分野もあります。こういった分野で事業を行おうと計画される際は注意が必要です。

ベトナムにおける税金・外資規制

ベトナムにも日本と同様複数の税金があります。その中でも日本企業にとってわかりにくいのは、外国契約者税(Foreign Contractor Tax)です。これは次のような外国企業に課税される税金です。

  • ベトナム企業との契約や合意、約束に基づき、ベトナムで事業を行う、または、収入を得る外国企業
  • ベトナム国内で商品の販売/国際貿易条件(Incoterms)に基づく商品の提供を行う外国企業
  • ベトナムで商品を供給し(スポットで輸入-輸出と呼ばれる (on the spot))、ベトナムで収入を得る外国企業
  • ベトナムパートナーを通じて、外国名で交渉し、契約を締結する外国企業

基本的には、外国企業と取引をしているベトナム企業が代わりに納税するもので、外国企業はその分を取引価格に転嫁されることによって間接的に支払うことになります。

また、日本とベトナム間には日越租税条約が締結されています。日本法人がベトナムに恒久的施設を有していない場合には、その日本法人の事業活動から生じる所得には日本側のみ課税できます。一方で、ベトナム当局ではこの条約が現場で理解されておらず、ベトナム側で課税されることもあるようです。その場合でも日本の税務当局が免税することはないので、結果的に二重課税になってしまう例もあるため必ず抑えておくべき知識の1つです。

ベトナム上場企業・未上場企業の買収

日本の上場企業を買収する際は未上場の企業を買収する時より様々な制約があります。同様に、ベトナムの上場企業を買収する際にも様々な制約をクリアしなければなりません。

例えば、外資が保有できる株式割合は上限49%と定められています。この上限は「全ての外資企業」の合計です。つまり、既に30%保有している外資企業がいる場合は、19%までしか取得できないことになります。ただし、証券取引委員会の承認により、100%まで引き上げることもできます。

その他にも上場維持基準の一つとして、流動性の確保の観点から最低100人以上の株主が20%以上を保有している必要があります。また、上場企業の25%以上の議決権を取得する場合には公開買付が必要です。ただし、株主総会にて承認された場合は相対取引で完結させることができるので、実務上は株主総会を経て手続きを簡潔化することが多いようです。

未上場企業を買収する時は、下記の手続きが必要になります。

  1. 計画投資局(DPI)へのM&A登録手続
  2. 企業登記局(BRO)への社員・株主変更通知

ただし、1については場合によっては免除になる場合(条件付投資分野の事業を行っていない、取得する株式が51%未満など)もありますので、確認が必要です。

*法的には「公開企業」か「未公開企業」かで分類がされますが、ここでは便宜上「上場企業」・「未上場企業」で分けて説明しています。

M&A推進の「コツ」

M&Aには決められたプロセスがあり、細かい差はありますが、大枠はどこの国でも変わりません。戦略策定から始まり、ソーシング、検討、DD(Due Diligence、詳細精査)、条件交渉、クロージング手続き、PMI(Post Merger Integration、経営統合)と進んでいきます。

このプロセスの中で難しい面は様々ありますが、それらを乗り越えて推進するコツは二つあります。

  • スケジュールを決めて短期間で行うこと
  • 買収後の責任者が最初からリードすること

様々な課題に直面すると、どうしても、徐々に優先度が下がってきてしまうでしょう。日常業務の傍らで進めることになるのでなおさらです。会社の戦略としてM&Aを実行すると決めたのであれば、短期間で一気に進めることが重要です。

また、M&Aにおいて一番重要なのは買収後のいわゆるPMIです。PMIがしっかり実行できないと、たくさんのお金と労力を費やしたM&Aが失敗に終わってしまいます。それを避けるためには、PMI責任者がM&Aプロジェクト責任者として最初から携わり、「自分事」として取り組むことが重要です。

今日からすぐにできることとして、情報収集をお勧めします。最新の情報がメディアや市場調査レポートなど、様々な媒体から入手できます。まずはそういった情報を収集して頭の中に地図を作り、実際に現地で現場の空気を感じることが重要です。(お金をかけた)具体的な案件の探索はその後からでも十分です。

例えば、無料で情報を入手できる媒体としてこちらがあります。

ベトナムニュース総合情報サイト。時事情報を幅広く扱っています

ベトナム生活情報サイト。ベトナムでの生活に関連する情報を中心に扱っています

ベトナム市場を様々な切り口でまとめた市場調査レポートが入手できます

世界中のM&A案件やスタートアップのビジネスモデルをわかりやすく整理して掲載しています

海外M&A・スタートアップ投資プラットフォーム|Growtheater
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【無料ダウンロード】ベトナムへの進出を検討している方へ

セミナーでは、M&Aを推進していくうえの注意点やM&Aプロセスをより詳しく解説しています。貴社の海外進出の検討にご活用ください。

このような方におすすめです。

  • ベトナムへの進出を検討し始めた
  • どのような進出手段があるのか知りたい
  • ベトナムの企業制度が知りたい
  • ベトナム企業のM&Aの進め方を知りたい

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