インドの小売業は、世界的にも注目される成長市場です。人口約14億人を抱え、多様な文化と経済階層に支えられた同国の小売業は、近年大きな変革を遂げ「巨大市場」としての地位を確立しつつあります。本記事では、インドの小売業の現状、物流市場、急拡大するeコマース、そして今後の展望について詳しく解説します。
インドの小売業
インドの小売業の特徴
インドの小売業は、多様性と急速な変化が特徴的です。小売市場は、伝統的な露店や地元の小型店舗(キラナ)に加え、大規模ショッピングモールやスーパーマーケットといった、近代的な小売形態が急速に普及しつつあります。キラナでは、食品や日用品の購入が中心で、消費者との密接な関係を持ち、信頼をベースとした商売を行っています。そのため、近代的な小売形態が進む一方で、伝統的なキアラの保護を求める政治的な要請もあり、小売業の外資規制改革は難航すると考えられています。(出所:ジェトロ)
経済成長の著しいインドでは、地方部でも所得の向上に伴い消費が押し上げられており、特に、農村部の購買力の向上が期待されています。このような地域では、インフラの整備が進むにつれて、新たな商業拠点が生まれています。また、インドは多様な言語、宗教、文化を持つ国であり、地域ごとに異なる伝統や嗜好性に応じたさまざまな消費者ニーズがあることも、小売業の重要な特徴となっています。
インドの物流市場
インドでは、人口増加、小売業の発展に伴い、物流市場も急速に拡大しています。政府は、2030年までにインドの物流コストを世界水準と同レベルまで削減することを目標に掲げており、インド鉄道は貨物輸送能力の増強、貨物列車の高速化、運賃の引き下げ、貨物専用通路の設置、道路、港湾の整備など物流、インフラの改善を進めています。しかし、広大な土地を持つインドでは、なかなか整備が追いつかない状況にあり、都市内部の渋滞は大きな問題となっています。
最新テクノロジーで課題解決を目指すスタートアップの動向も注目されており、特に、FarEye(ファーアイ)はリアルタイムでの配送状況の確認、SaaSによる配送ルートの最適化などのサービス提供で、人気を集めています。(出所:Global Japan Consulting)拡大する物流市場に対し、政府や民間企業によってどのように課題を解決していくかが、今後さらに問われることになるでしょう。
急拡大するeコマース
eコマース市場の概要
インドのeコマース市場は、2024年には約1,100億ドル、2029年には約3,000億ドルに達すると予想されており、2024年〜2029年の予測期間中に平均成長率は21.5%になると予測されています。また、インドのeコマースでの購買者数は、中国と米国についで3番目に多く、今後さらに増加すると予想されています。(出所: Mordor Intelligence)
eコマース市場拡大の要因としては、スマートフォンやインターネットの普及、デジタル決済の普及、若年層中心の人口構成、中間所得層の拡大が挙げられますが、新型コロナによる影響も非常に大きく、多くの人がデジタルショッピングへ移行するきっかけとなりました。市場でのシェアは、Amazon、Flipkartが約半数を占めていますが、他にもアパレルを取り扱うMyntraや美容関係を取り扱うNykaaなど、各分野に特化したEC企業も参入し、競争は激化しています。
ONDCプロジェクト
ONDCプロジェクトは、オープンプラットフォームを提供することで、特に、インドの地方部や中小企業がeコマースに参入するための障壁を低くすることを狙いとしています。従来の大手eコマースプラットフォーム(例えば、AmazonやFlipkart)依存からの脱却と、消費者・企業間の取引をより多くの選択肢と自由度で実現することを目指し、2021年に政府がスタートさせました。
低コストでオンラインマーケットにアクセスできる環境を整えており、地方部の企業にも全国規模での販路拡大のチャンスが広がる仕組みになっています。また、消費者にとっても、さまざまなECサイトで同じ商品を比較・購入できるようになり、特定のECサイトに縛られることなく、自由に商品を選べるというメリットがあります。このプロジェクトは急速な成長を遂げており、取引数・販売者数の増加に加え、2023年5月時点でインド国内の236都市にも拡大しています。また、新たにB2Bプラットフォームも2023年7月から開始されており、次々と成果を上げるプロジェクトに世界が注目しています。
今後の展望
インドの小売業およびeコマースは、人口増加や購買力向上を背景に、さらなる成長が予想されています。特に、eコマース市場では、ONDCプロジェクトなどの推進により、地方部や中小企業がオンライン市場に参入しやすくなり、スマートフォンやインターネットの普及、5Gネットワークの拡大を追い風に、eコマース市場はさらに拡大することになるでしょう。
物流インフラは、オンラインショッピングの利用増加に伴い、さらにその重要性が増していくことになります。政府主導での鉄道や道路の整備が進むことで、都市間の物流網が強化され、地方部への商品の供給が可能となるでしょう。また、地方市場の活性化、農村部へのアクセス改善による新たな市場開拓も期待されます。
マーケティングと物流の最適化を図るために、AIやビッグデータの活用も注目されています。最新の技術によって、多様な文化背景を持つ人々への、よりパーソナライズされたサービス提供、効率的な在庫の管理などができることは、小売業界全体の競争力が向上する要素となります。
まとめ
インドの小売業界は、世界最大級の潜在顧客を抱えて、eコマースを中心に成長を続ける「巨大市場」を形成しています。物流インフラや外資規制など、課題も残されていますが、政府のデジタル化推進やONDCプロジェクトなどにより市場環境が改善され、中小企業も参入しやすくなったことで、今後も高い成長が期待されます。インドへの進出を視野に入れる際には、徹底した市場リサーチを基に準備することで、大きなビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。