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インドの農業|豊富な農地とイノベーション

海外進出
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世界有数の農業大国インドでは、豊富な農地と多様な気候条件を活かし、さまざまな農作物が生産されています。インド政府による農業政策や効率的な流通チャネルが、近年技術革新が進むことで加速するアグリテックの導入と相まり、農業の発展に寄与しています。この記事では、インドの農業の特徴から最新の技術革新、日系企業の取り組みまで詳しく解説していきます。

インドの農業

インドの農業の特徴

インドの農業は、就業人口の多さと多様な気候がその特徴として挙げられます。さまざまな分野の躍進により経済が急成長している同国では、依然として農業が経済の要であり生活の糧とされています 。農村部では尚のこと、多くの世帯が農業を主な収入源としていますが、2ヘクタール未満の農地を所有する小規模農家が多く、その低い生産性や所得は、インド農業の課題となっています。

広大な面積を有し、地域ごとの気候に適した作物が栽培されていますが、モンスーンと呼ばれる夏の雨季に生産性が左右されるという難点があります。降水量によっては大きな影響を受けかねないため、対策が必要とされています。

主な農産物と生産状況

インドでは、米や小麦が主要な穀物として広く栽培されています。米は主に南部と東部で多く生産され、国際的にも重要な輸出品となっています。一方、小麦は北部と西部で栽培が盛んで、国内消費に加え、輸出向けの生産も行われています。

また、インドは世界でもトップクラスのサトウキビ、綿花、豆類の生産国でもあります。これらの作物は、国内需要に応じた生産が行われており、農業生産の効率化が進められています。しかし、耕せる農地の限界や気候変動の影響を受けて、安定的な生産を確保するための課題も抱えています。

農業の発展

インドの農業は、近年の政策や技術の進展により、更なる発展が期待されています。インド政府は農業分野への投資を強化することで、農産物の流通ネットワークを整備しています。特に、農業インフラの向上や生産性の改善を目指した政策に力を入れ。これにより、農業の効率性が向上し、国内市場と国際市場の双方において競争力が増しています。

農業政策

インド政府は農業の成長を促進するため、農業従事者への支援や、灌漑インフラの整備、低利の融資制度を実施しています。インドでは、農業ローンを組んだものの、収穫量減少や価格下落で債務過多に陥る零細・小規模農家も多く見られるため、財政援助を多く行っています。KCC(キサン・クレジットカード)制度は、作物の生産や農業投入資材の購入に必要な資金を引き出せる制度で、インフォーマル金融(地主や商人による高利貸し)からの借入を減少させており、広く普及が進んでいます。また、肥料や種子への補助金や、現金給付プログラム「PM-KISAN」なども農家の生活の支えとなっています。

他にも、自然災害や害虫、病気による損失に対応した農作物保険「PMFBY」や土壌の栄養価をチェック・健康状態分析を提供する「土壌健康カード制度」などがあり、農家の経済的負担を軽減し、生産性向上に貢献しています。

農産物の流通チャネル

インドでは、農産物の流通チャネルが未整備な地域も多く、農家が直面する課題となっています。従来、農産物は州政府管轄の卸市場「マンディ」で仲買人を通じて取引されてきました。しかし、多くの仲買人が介入することで農作物が買いたたかれ、手数料が二重に取られてしまうという構造が問題となっています。さらに、政府が農産物を買い上げて貧困層に安く分配するシステム(PDS)では、対象は米や小麦に限られており、不正流通も横行しています。

近年では、「eNAM」という全国的な電子取引プラットフォームが導入され、農家が卸売市場とオンラインで繋がるようになりました。これにより、市場を全国に広げられるとともに、複数の仲買人を排除でき、農家のコスト削減や透明性の高い取引を可能にしています。しかし、全ての州で認められているわけではないので、品質保証やライセンス取得に改善を要し、広く普及するにはまだ難しい状況と言えます。

インドの農業は、国内市場だけでなく、グローバル市場への展開にも積極的に取り組んでおり、農産物の輸出大国と言えます。特に米やスパイスにおいては世界をリードする存在です。

他にも、小麦、果物、野菜、砂糖、綿花、茶などの市場も大きく成長し、インド政府は農産物の輸出促進政策を進めており、農産物の品質向上や規格の整備を支援しています。また、インド産農産物のブランド化やマーケティング活動も強化され、国際的な競争力が高まっています。

さらに、輸出向けの流通インフラや物流技術の改善にも力を入れており、冷蔵輸送技術や品質管理システムの導入が進められています。これにより、インド産農産物を新鮮な状態で海外市場に供給して、より多くの消費者へ届けることできます。特に、ASEAN諸国や中東、アフリカ、欧州といった地域におけるインド産農産物の需要は、今後さらに拡大することが予想されています。

農業の技術革新

アグリテック

インドのアグリテック業界では、多くのスタートアップが農業の課題に取り組むことで活躍の場を広げています。ドローン技術では、Drone Destinationと農家向けプラットフォームを展開するDeHaat社が提携し、同社の種子、肥料、農薬などの農業資材を提供とあわせてドローンでの散布サービス行い、作業効率と商品へのアクセス向上を実現しています。

AI技術では、Cropinが「SmartFarm」を開発し、農場の管理からバリューチェーン効率化、生産物の予測まで可能性を高めています。ロボット技術では、Green Robot Machinaryが、画像処理を活用した綿花収穫ロボットを開発し、効率的な収穫を実現しています。

また、Fasalは、IoTセンサーとAIを活用し、土壌と気候の遠隔監視で灌漑や肥料・農薬散布の最適化を進めています。こうしたアグリテックの進化は、農業の効率化を促進し、生産性の向上と環境負荷の軽減に寄与しています。

日系企業

インドでの農業発展において、日系企業の活躍には目覚ましいものがあります。サグリは、インドの農業市場に初めて進出した日系企業で、衛星データとAIを活用した農地情報の基盤整備により、収穫量推移や予測、気候リスク解析を実現しています。現地大手企業との提携や、新たな農業の脱炭素ビジネス展開など、今後の動きへ注目が集まっています。

トラクターなど農機を製造・販売するクボタは、2024年8月に3つのインド子会社を統合し、低価格帯トラクターの生産強化が期待されています。さらに、日本の農薬メーカーである、日本農薬や住友科学が、新たな生産施設を建設するなど、日系企業はインド農業において躍進し続けています。

まとめ

インドの農業は、広大な農地と多様な気候条件を活かし、世界的な農産物の生産国としても重要な役割を担っています。政府の農業政策やインフラ整備、アグリテックの導入など、生産性の向上やグローバル市場への展開も進んでいます。また、日系企業の活躍も農業の発展を後押しする要因となっています。しかし、依然として、小規模農家の生産性の低さや流通チャネルの整備、気候変動への対応などの課題が残されており、解決に向けた対応が必要です。インドへ進出する際は、現地の農業環境や規制、それに伴う課題を理解し、政府の支援制度を活用した戦略を立てることが、成功の鍵となるでしょう。

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