急速に発展する製造業を背景に「世界の工場」としての地位を目指すインド。豊富な労働力、成長を続ける国内市場、そして政府の政策支援が、インドの製造業へ国際的な注目を集める要因となっています。本記事では、政策や主要な製造業分野、さらに代表的な工業地帯について詳しく解説します。
インドの製造業
インド製造業の特徴
インドの製造業の特徴は、いくつか挙げられます。1つには、低い労働コストです。2023年に世界最大の人口となったインドでは、若い労働力が豊富にあり人件費も比較的低いため、労働コストを抑えながら品質と生産性の向上を可能にしています。2つ目は、市場の拡大です。経済成長が続くインドでは、中間層の拡大により、消費材や工業製品など幅広い分野での需要が増しており、国内外共に生産が活発化しています。3つ目は、各国企業からの投資です。特に台湾、米国の企業が投資を拡大しており、インド事業を増強しています。インド製造業のレベルアップにより、今後は生産だけでなく、販売機能の拡大も予測されています。(出所:ジェトロ)
メーク・イン・インディア
インド政府が2014年に立ち上げたメーク・イン・インディアとは、主に製造業を中心とした産業振興を目的とした政策となります。投資とイノベーションの促進、スキル開発の強化、知的財産の保護により製造インフラストラクチャを構築することを目指しています。新たな雇用機会を創出し、第二次および第三次産業の強化も視野に入れているため、インドの経済成長にとっては欠かせない要素と言えます。(出所:国立研究開発法人科学技術振興機構)
以下はプログラムの概要です。
ジェトロによると、2020年のコロナ禍にインド政府は「自立したインド(Self-Reliant India)」を打ち出し、「メーク・イン・インディア」の強化、さらには、グローバルサプライチェーンの確立や輸入依存度の低減を表明しています。こうした取り組みは、インド製造業の国際競争力を高め、インドを「世界の工場」として確立するための重要なステップとなっています。
主な製造業分野
インドの製造業は多岐にわたりますが、その中でも成長が著しい分野を次に述べます。
自動車
インドは世界第4位の自動車市場であり、急速な成長を続けています。豊富で安価な労働力と原材料、効率的なサプライチェーンの構築、政府支援や優遇措置などによる生産コストの優位性を背景に、国内市場のみならず輸出市場でも競争力を強化しています。国内メーカーと多国籍企業が協力し、高品質かつ低コストの車両を生産する体制が整っており、製造および輸出のハブとして国際的な地位を確立しつつあります。
近年では、電気自動車(EV)分野でも政策支援が進んでいます。政府は雇用創出や「自立したインド」の実現に向けて、電動車両の普及を加速させるため、充電インフラの整備や税制優遇を実施しており、これが市場拡大の追い風となっています。インド国内では、人口増加に加え、経済成長に伴い中間層が増加していることから、自動車市場のさらなる拡大が予測されています。
鉄鋼
鉄鋼産業は、インド製造業を支える基盤となる分野と言えます。インドは世界第2位の鉄鋼生産国であり、輸出と国内需要の拡大と共に、今後も持続的な成長が期待されています。国内では、特に建設業やインフラ開発の分野で重要な役割を担っており、道路、鉄道、港湾の整備に欠かせない要素として需要が高まっています。近年、インド政府は、インフラプロジェクトへの投資を大幅に増加させており、鉄鋼産業の成長を後押ししています。
また、鉄鋼産業は再生可能エネルギーを活用した生産体制の強化や、リサイクル鋼材の利用拡大など、持続可能な成長へのシフトも加速しています。日本企業の三井物産もインド大手のリサイクル企業へ出資を発表しており、今後も世界から動向が注目される産業となるでしょう。(出所:三井物産株式会社)
化学製造
化学製造業は、国内外の需要増加により急成長しています。特に、製薬産業や農薬、特殊化学品の分野はその顕著な例として挙げられます。
製薬分野では、世界的なジェネリック薬品会社20社のうち8社がインド企業であり、インドは世界有数のジェネリック医薬品供給国としての地位を確立するに至っています。低コスト・高品質な医薬品は、約200カ国に向け輸出されているのです。(出所:ジェトロ)
農薬の分野では、近代化に加え、人口増加に伴う食糧需給へ向けた農業の生産性向上を図るため、化学肥料や除草剤のニーズが高まっています。特殊化学品についても、自動車、電子機器、繊維産業など、他分野との連携が強まることで、需要が拡大しています。また、政府の規制緩和やインセンティブ政策も成長を後押ししています。
インドの工業地帯
インドの製造業は、特定の工業地帯に集中しており、それぞれに特色ある産業が発展しています。
ムンバイ
マハーラーシュトラ州の州都ムンバイは、インドの商業都市として知られ、製造業の中心地でもあります。特に自動車部品、化学品、繊維産業が盛んです。ムンバイ港は、インド最大級の港湾として輸出入を支える基盤として機能し、国内外の企業にとって戦略的な拠点とされています。また、金融の中心地としても栄え、多国籍企業が進出しやすい環境が整っています。
ムンバイとデリーを結ぶ産業回廊(DMIC)プロジェクトは、インドの経済成長を牽引する重要な取り組みとなります。物流・輸送インフラ整備を通して、製造業や貿易活動を活性化し、同国の経済発展に大きく貢献することが期待されているのです。DMICには産業団地や経済特区が含まれており、新たな投資機会も創出されています。このように、ムンバイはインドの製造業と国際貿易のハブとして、その重要性を高めていると言えます。
チェンナイ
「インドのデトロイト」と呼ばれるチェンナイは、製造業が集積した地域です。特に、自動車産業においてそれは顕著であり、自動車製造に関連したサプライチェーンが整備されています。日系企業をはじめとする多国籍企業が進出しており、地元企業との連携を強化することで生産効率が向上しています。また、双日、みずほ銀行・日揮が手掛けた工業団地が開発されていることもあり、日系企業の進出が増加しています。
近年は、インド国内だけでなく、世界市場への輸出拠点としてもその重要性を増しつつあります。自動車輸出に加え、高品質な電子部品も多く製造されているので、国際市場での競争力が高まっているのです。さらに、IT産業と製造業の融合が進む地域としても注目されており、自動車産業における先進技術の導入やスマートファクトリーの開発が進んでいます。
まとめ
インドの製造業は、政府の積極的な支援と国内市場の拡大を背景に、世界的な成長を遂げています。 「メーク・イン・インディア」政策が製造業の基盤強化を加速させ、ムンバイやチェンナイなどの主要都市がインフラ整備を進めることで、インドは世界的な製造拠点としての地位を確立しつつあります。インド市場への進出を検討する際には、政策支援や多様な分野での可能性、強みを理解し、戦略を立てることで、大きな成果をもたらすことができるでしょう。