世界人口ランキングでトップに躍り出たインドは、高い経済成長を示し、世界から注目を集めています。
この記事では、インド南部の人口統計や経済動向、産業構造を解説し、この地域が国際的にどんな役割を果たしているかを明らかにしていきます。
インド南部の概要
インド南部は、チェンナイやベンガルールといった主要都市を擁する多様な文化と経済が共存した地域です。そんなインド南部の人口・GDPなど概要についてご紹介します。
人口・面積・GDP
インド南部は、5つの州と連邦直轄領であるポンディシェリ、アンダマン・ニコバル諸島・ラクシャドウィープ諸島からなります。ベンガルールとチェンナイというインド5大都市中2つがあることで、人口も多い傾向にあります。
インド南部のGDPは比較的高く、経済的に豊かな地域であるといえます。その一方で、女性の教育水準向上や社会的進出、長年の人口抑制策、核家族化による出産への考え方の変化などが起因し、出生率の低下がみられます。
インドにおける経済的地位
インド南部は、高度なITと自動車産業で知られる経済的に重要な地域です。特にチェンナイやベンガルールといった大都市では、国内外からの投資が活発で、テクノロジーと製造のハブとして機能しています。また、日印共同で「チェンナイ・ベンガルール産業回廊構想」も推進されており、産業都市の設立、接続性とインフラの向上などのプロジェクトが進行することで、製造・開発の拠点としてさらに躍進することが期待されています。大学の数が豊富で、優秀な人材も多く輩出しています。インド教育省によると、2023年のインド国内大学ランキングでは、タミル・ナドゥ州内の18校がランクインしており、チェンナイのインド工科大学マドラス校が1位になりました。こうした教育機関も経済成長を支えており、国際的にもその地位を築いています。
インド南部の産業構造
インド南部は、先進的なIT業界と自動車産業を中心とした製造業で栄えています。以下では、主要な都市と産業についてご紹介します。
中心都市
インド南部では、チェンナイとベンガルールの他に、ハイデラバード、ホスールも重要な都市として知られています。ハイデラバードは、インドで最も新しい州であるテランガーナ州に位置し、急速に発展した都市です。IT産業が盛んであり、Microsoft、Apple、Google、Amazonなど巨大IT企業の誘致に成功しています。製薬業も盛んで、日系企業であるオリンパスは「オフショアディベロップメントセンター(ODC)」の活動を始め、さらに研究開発体制の強化を図っています。
タミル・ナドゥ州に位置するホスールは、ベンガルールから車で1時間の距離にあり、立地が優れていることから、ホスールとその近郊には自動車産業や電機電子産業などの製造業の集積が進み、近年ではEV二輪車の投資案件も多くなっています。また、ホスール近郊にはインド最大規模のiPhoneの工場建設が計画されており、今後の製造業の成長地として注目を浴びています。
チェンナイ
タミル・ナドゥ州の州都チェンナイは、インドの文化的、経済的中心地の1つです。とりわけ自動車産業において 、フォード、現代自動車、日系のルノー日産、ヤマハなどの国際的な自動車メーカーだけでなく、自動車部品メーカーも地場・外資ともに集積していることから「インドのデトロイト」と称されています。さらに、ITとソフトウェア開発の重要拠点としても、大手IT企業がオフィスを構えています。
政府直轄のチェンナイ港は、インド東海岸の主要な貿易港で、大規模なコンテナ取扱い能力を持っていますが、整備状況があまり芳しく良くないと言われています。東南アジアだけでなく、日本や中国等のゲートウェイとしても近年重要性が増しているため、入港管理手続きの電子化などによる運用改善を行っています。
豊かな文化遺産と活発な経済活動が見られるチェンナイは、インド南部を代表する都市として、国内外からの注目を集め続けています。
ベンガルール
カルナータカ州の州都ベンガルールは、IT産業の中心地として世界的にもよく知られ「インドのシリコンバレー」と呼ばれています。GAFAMをはじめとする世界的なテック企業の多くは、この地域を拠点として最新の技術の研究・開発を進めています。
IT産業のみならず、自動車・自動車部品、航空宇宙、バイオテクノロジー産業も盛んであり、諸産業が集積しています。今後は医療関連のハブとしての機能を強化するため、知識・医療・イノベーション・研究都市の建設構想を発表しており、雇用の創出やGDPへの貢献が期待されています。
スタートアップに対する政府の支援、高度な教育機関が置かれ優秀な人材が豊富なこと、エンジェル投資家が多いことなどから、スタートアップ企業数はインド国内でもベンガルールが突出しているとされています。
気候が一年を通して過ごしやすく、生活面・治安面で優れていることや、欧米企業の進出により多国籍レストランが充実していることなどから、進出先として人気が高い地域です。
主要産業
多岐にわたる産業が存在するインド南部は、地域経済の成長を牽引しています。特に自動車産業とIT産業が盛んで、インド経済の重要な柱の一つとなっています。
自動車
インドでは国内の自動車販売数が増加するに伴い、自動車産業が拡大し続けています。特に、インド南部はチェンナイを中心に自動車産業が発達しており、世界的なブランドの生産拠点となっています。自動車メーカー、関連する自動車部品メーカーが集積し、生産の効率化、技術力向上だけではなく、多くの雇用の創出も果たしています。
しかし、インドは近年大気汚染が問題となり、EV(電気自動車)の普及が課題となっています。政府は2030年までにEVの販売を乗用車の3割、二輪車の8割にまで引き上げる目標を掲げています。政策や奨励補助金などもあり、二輪車および自動三輪車も含めたEVは、生産、販売ともに高い伸び率を示しています。特に、二輪車、バッテリー、充電インフラなどの分野では、スタートアップ企業の活躍が目立ちます。
EV関連のスタートアップ企業の本社の所在地は、都市別に見るとベンガルールが最も多く、地域別に見ても南部がほぼ占めています。チェンナイを中心とした自動車産業の集積と、ベンガルールを中心としたスタートアップ集積を掛け合わせることで、インド南部は今後も自動車産業の主軸となることが予想されます。
IT
インド南部は「世界のITハブ」として広く認識され、ベンガルール、チェンナイ、ハイデラバードなどを中心にIT産業が急速に発展しています。世界有数のIT企業が集結しており、大規模な開発センターを置く一方で、InfosysやWiproのようなインドの大手IT企業もこの地域から生まれています。また、ベンガルールやハイデラバードでは、スタートアップ文化が根付いており、新たな技術革新の発信地となっています。
ソフトウェア開発、BPOなど、IT業界の中で多岐にわたる分野で成長してきましたが、近年ではAI、IoTなどの先端技術でも成長が見られます。インド発の生成人工知能のスタートアップであるクルトリム・SI・デザインズは2024年の新規インド発ユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)第1号となりました。インドのAI開発企業として初のユニコーンが誕生したことからも、今後もさらなるIT産業の発展と国際的な競争力の強化が期待されます。
インド南部に進出する日系企業
インド南部は、自動車、IT産業をはじめとした多くの日系企業が進出しています。自動車メーカーでは、マルチ・スズキ、トヨタ・キルロスカ、ホンダ、日産、いすゞが主だったところとして挙げられます。そのうちマルチ・スズキは乗用車販売台数トップで順調に実績を伸ばしています。自動車部品メーカーGMBは、チェンナイにEVやハイブリッド車向けの部品製造を手掛ける新会社を韓国子会社との共同で設立することを発表しました。こうした自動車産業の集積に伴い、日系自動車関連企業の進出が増えるものと予想されます。
IT産業ではメルカリ、ラクスル、楽天などが進出しており、ベンガルールに拠点を設立、サービスの開発を行っています。中でも、楽天は最も早く拠点を置いて、現地CEO、CPOも含めインド人でオペレーションを行い、2022年には新オフィスを構えています。楽天モバイルが買収した子会社のインド人従業員を加えると、インド国内で5,500人を超える従業員数の規模になっています。今後のIT産業では、日本国内の深刻なIT人材不足を補い、インドの有能で豊富なIT人材を活用していくことが期待されています。
インド南部には日系企業進出を支える工業団地も数多く存在しており、チェンナイ近郊には、インド国内でもそう多くはないものの日系企業が開発した工業団地が集まっています。丸紅がベンガルール近郊に次世代工業団地整備の検討をしているなど、進出を検討する日系企業にとっての選択肢がますます広がっています。
まとめ
インド南部は主要都市が経済的なハブとして機能しており、高度な人材を供給することから、日系企業を含む多国籍企業の重要な進出先としても注目されています。スタートアップの数も多く、新たなビジネスチャンスを生むインド南部は、今後も成長を続け、さらに国際的な競争力を高める地域であるといえます。インド南部に進出する際は、地域の特性を深く理解し、ニーズに応じたアプローチを取り入れることで、大きな成果をもたらすことができるでしょう。