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インドのエネルギー産業|世界有数のエネルギー消費国

インド
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世界有数のエネルギー消費国として、その産業が急速に成長するインド。国内のエネルギー需要増加にともない、インフラ整備や再生可能エネルギーの導入が進められています。本記事では、インドのエネルギー産業の現状や、エネルギー自給を目指した取り組みについて詳しく解説していきます。

インドのエネルギー産業

エネルギー需要の増加

インドでは急速な経済成長に伴い、エネルギー需要が年々高まっています。人口増加、都市化の進展などがその要因にあり、これにより電力消費量が大きく伸びているのです。エネルギー消費においては、中国、米国に次ぐ第3位となっていますが、ニッセイ基礎研究所のレポートによると、2050年には米国に匹敵する存在として浮上するとの予測がなされています。また、製造業やサービス業の拡大も、エネルギーの需要を押し上げる要因となっています。この状況に対応するため、インフラの改善や新たな発電所の建設、再生可能エネルギーの拡大が急務とされています。

エネルギー生産

インドのエネルギー生産は、依然として石炭に大きく依存しているのが実情です。国内の豊富な石炭埋蔵量により、発電の主力を担っていることになります。2023年12月には、中長期的に急増する電力需要への対応策として、2032年初頭までに火力発電設備をさらに88GW増設すると発表しており、この新規発電設備のほとんどが石炭火力になると見込まれています。(出所:独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構

一方で、環境問題への対策として、再生可能エネルギーの割合を増やす取り組みも強化され、エネルギー源の多様化が図られています。特に太陽光発電、風力発電の潜在能力が高く、今後のエネルギー供給の拡大が期待されています。

エネルギー自給国に向けた取り組み

インドは、石炭においては需要量の8割を国内調達している一方で、石油・ガスなど化石燃料については、そのほとんどを輸入に依存しなければなりません。その状況から脱却してエネルギー自給率を高めるために、より効率的なエネルギー利用の実現へ向けて、さまざまな政策を推進しています。

国家グリーン水素ミッション

インド政府は、クリーンエネルギーの新たなフロンティアとして「グリーン水素」に注目しています。2023年1月には「国家グリーン水素ミッション」を掲げ、2030年までに500万トンのグリーン水素生産を目指し、国内で約125GWの再エネ容量追加を企図しています。このミッションは、約1,974億の予算のもと、主に以下の表にある政策で構成されています。この他にも、研究・スキル開発への財政的・非財務的措置、関係各社への働きかけなどもミッションに組み込まれています。これにより、インドは、エネルギー自給の向上を図るとともに、経済成長の促進、脱炭素社会への移行を進めています。

MINISTRY OF NEW AND RENEWABLE ENERGYより本文引用して作成

生産連動型優遇策(PLI)の導入

インド政府は、エネルギー産業の生産能力強化を目的に、生産連動型優遇策(PLI)を導入しています。このプログラムは、基準を満たした特定分野において、売上に応じたインセンティブを支給する国内製造業振興策です。エネルギー産業では、高効率太陽光発電モジュール分野とACC電池分野に適用されています。

高効率太陽光発電モジュールは、国内製造能力を高め、輸入依存を減らすことが目的とされています。2023年4月時点では、14社が採択され、アダニ・グループ、リライアンスなどが名を連ねています。(出所:ジェトロ

ACC分野は、国内の付加価値を高め、コスト競争力のある電池製造を目指しています。ACCバッテリーは、EVや家電製品、太陽光発電、電力網など多くの分野での活用が期待されます。2024年1月には、7社から計70GWh分の申請があり、そのうち1社が採択されました。(出所:ジェトロ

屋根置き太陽光発電計画

インドでは、家庭における屋根置き太陽光発電の普及が推進されています。政府は1,000万戸の住宅に設置するため、7,502億ルピーを投じています。参画する家庭には1kW当たり3万ルピー、最大で3kwを超えるシステムに7.8万ルピーの補助金が支給され、ユニット設置には低金利ローン(現在の利率は7%)も利用可能です。(出所:ニッセイ基礎研究所)開始から10か月で70万戸の設置が完了と計画は順調に進み、さらにオフグリッドの太陽光発電が182%増加しました。(出所:Science Portal India)この取り組みは、農村部のエネルギーアクセスの向上、家庭や企業におけるコスト削減や環境負荷の軽減を促進し、再生可能エネルギーの普及を一層加速させるものと期待されています。

バイオ燃料国家戦略2018

インド政府はバイオ燃料の導入拡大に向け、2018年に「バイオ燃料国家戦略」を発表し、2030年までにガソリンに20%のエタノール、ディーゼルに5%のバイオディーゼルを混合するという目標を掲げました。農業廃棄物や有機物を利用したバイオ燃料の国内生産増加、第2世代バイオ燃料精製所の設置、新技術の開発、環境整備など、多方面からアプローチしています。農業大国であるインドは、バイオ燃料のポテンシャルが高く、作物の野焼きが減少することで大気汚染対策にも寄与することになります。

また、ジェトロによると、2025年から圧縮バイオガス(CBG)の自動車用圧縮天然ガス(CNG)と家庭用の都市ガス(PNG)への混合が義務化され、混合率は段階的に増加することになります。バイオ燃料の普及は、化石燃料の代替、エネルギー自給率向上、脱炭素社会への実現に貢献し、農業の収益性向上や雇用機会創出も期待されています。

今後の展望

インドのエネルギー産業は、現在大きな転換期を迎えており、2047年までのエネルギー自立と2070年までのネットゼロエミッション達成を目標に掲げています。現在、太陽光発電、風力発電が主な再生可能エネルギーとして利用されていますが、今後バイオマス、水力発電など、他のエネルギー源へもその選択肢は広がることになるでしょう。また、原子力発電や小型モジュール炉(SMR)の開発にも注力しています。

再生可能エネルギーの拡大に伴い、ほとんどの地域で石炭火力よりも太陽光発電のコストが安くなってきています。しかし、電力系統の安定化、エネルギー貯蔵、送電網の整備といった課題もあり、インフラ整備、蓄電能力の向上が求められていることも事実です。また、技術開発、人材育成、国際協力などによる、持続可能なエネルギーシステムの構築へも今後取り組んでいくことになります。

まとめ

インドは、世界有数のエネルギー消費国で、経済成長に伴いエネルギー需要が急増しています。政府は、エネルギー安全保障強化や環境負荷の低減、経済成長の促進を目的に、再生可能エネルギーの導入を積極的に進めています。特に、太陽光発電、バイオ燃料はポテンシャルが高く、PLI導入や「バイオ燃料国家戦略2018」などの政策が打ち出されています。さらに、新たなエネルギー源としてグリーン水素の生産にも注力しています。しかし、インフラ整備や電力安定化、技術開発など課題も多く残されていることは否めません。インドへ進出する際には、政策や市場動向を把握し、現地企業との連携や技術導入を検討することで、ビジネスチャンスを掴むことができるでしょう。

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