今や経済大国とまで呼ばれるようになったインドでは、スタートアップエコシステムも大きく発展しており、近年はユニコーン企業も数多く誕生しています。この記事では、急成長を遂げて世界から注目を集めるインド発のユニコーン企業をご紹介します。
ユニコーン企業
ユニコーン企業とはどのような企業を指すのでしょうか。以下では、ユニコーン企業の定義と、世界的に増加する背景について解説します。
ユニコーン企業とは
ユニコーン企業とは、評価額が10億ドル以上の非公開のスタートアップ企業を指す言葉です。この用語は、2013年にベンチャーキャピタリストのアイリーン・リーによって広まり、類い希な価値ある企業を、伝説上の生き物であるユニコーンに例えたことに由来します。
当時は僅か数十社だったユニコーン企業ですが、その後ベンチャーキャピタルの普及によって大規模な資金調達が可能になり、多くのユニコーン企業が生まれるようになりました。2024年には、世界のユニコーン企業数が1,200社を超えるまでに増加しています(出所:CB Insights)。近年のグローバル化によって、さらに企業価値が高まるようになり、ユニコーンのさらにその上をいく企業を「デカコーン企業(評価額100億ドル以上)」、「ヘクトコーン企業(評価額1,000億ドル以上」」などと呼ぶようになりました。
世界でユニコーン企業が増加した背景
2021年は、世界的にユニコーン企業が最も多く誕生した年となりました。2019年からのパンデミックによって、リモートワークやオンラインサービスの需要が急増したことを背景に、デジタル分野を中心としたスタートアップが急激に成長しました。このスタートアップエコシステムの急速な進化とデジタル化の加速によって、2021年は世界で500社を超えるユニコーン企業が新たに誕生することとなりました。
インドでは、2011年に初のユニコーン企業が発足した後、1年に1社のペースでユニコーン企業が増えていましたが、2018年以降に急増し、2021年には44社がユニコーン企業の仲間入りを果たしました。2022年には、インドのスタートアップ企業数は米国、中国に次ぐ世界3位の規模となりました。現在、世界のユニコーン企業のうち、10社に1社はインドから誕生しており、さらなる盛り上がりを見せています。
注目を集めるインド発のユニコーン企業5選
以下では、世界から注目を集めるインド発のユニコーン企業をご紹介します。
Krutrim
Krutrim(クルトリム)は、2023年に設立されたAIスタートアップ企業です。Krutrimが発表した大規模言語モデル(LLM)は、インドの22言語を理解することができ、約10言語でコンテンツを生成できるなど、インドに特化しています。また、Krutrimはデータセンターの開発も行っており、最終的にはAIエコシステム向けのサーバーやスーパーコンピューターの創造を目指しています。
Krutrimの創業者は、インド最大のライドシェアリングサービスを運営するOla Cabsの創業者でもあります。その手腕を発揮し、2024年のインドにおけるユニコーン企業第一号になるだけでなく、AI分野でもインドで初めてのユニコーン企業となりました。設立から1年未満という世界でも類を見ない急成長に、今後の期待が高まっています。
(出所:AT PARTNERS)
Zepto
Zepto(ゼプト)は、2021年に設立されたオンラインの食品・日用品のデリバリープラットフォームです。従来の食料品配達サービスが30分程度かかる中、Zeptoはアプリで注文を受けてから10分以内の配達を目指しており、その圧倒的な提供スピードを武器としています。そのスピードを支えているのは、ダークストアと呼ばれる配達拠点です。自社で200店舗以上のダークストアを構え、注文を受けると60秒以内にダークストアから配達することを徹底的にシステム化しています。
インドのクイックコマースとしては後発のZeptoでしたが、2023年の同国におけるユニコーン企業第一号となりました。創業から2年で急成長したため、世界から注目を集めています。今後の計画として、2025年までに700店舗のダークストアの展開を発表しており、さらなる活躍が期待されます。
(出所:AT PARTNERS)
OYO Rooms
OYO Rooms(オヨ・ルームズ)は、2013年に設立されたホテルチェーンです。OYOブランドのホテル運営を中心に、ホテル内の飲食事業やコワーキング事業などを手がけています。2015年にソフトバンクグループからの出資を受けたことで、日本でも話題となりました。インド国内だけでなく、国際的にも展開しており、アジア、ヨーロッパ、北アメリカなど多くの国に進出しています。一時期はコロナ禍の影響を受けて倒産の危機もありましたが、その後は事業を立て直しています。
日本には、2019年に「OYO Japan」として進出し、2022年には「Tabist(タビスト)株式会社」に社名を変更しました。OYOのグローバルで統一したホテルチェーンから、日本の旅と宿泊環境によりフィットした新たな旅体験を提供するブランドへの転換を狙いとしています。
Zoho
1996年に設立されたZoho(ゾーホー)は、顧客管理や会計管理など、多種多様なビジネス向けソリューションを提供するインド発の大手ソフトウェア企業です。Zohoのサービスは主にクラウドベースで提供され、データのセキュリティとプライバシーを重視し、自社データセンターを利用しています。
インド以外にも、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界中に拠点を持ち、世界で1億人以上のユーザーを抱えています。日本市場へは1998年に参入し、2007年に日本法人を設立しました。2012年から2018年までの間で、Zoho全体の売上は7倍に増加するなど、競合と比較しても早いペースの成長を示しています。今後もインドを代表するグローバル企業として、躍進し続けていくことでしょう。
Razorpay
Razorpay(レイザーペイ)は、2014年に設立されたフィンテック企業です。小規模事業者及び企業へのオンライン決済や支払いサービスの提供に加え、事業所へのローン貸付や法人クレジットカードを発行するネオバンキングプラットフォームを立ち上げるなど、急速に事業を拡大しています。2020年にユニコーン企業となり、今ではインド最大のフィンテックスタートアップとして知られるようになりました。
政府によるキャッシュレス化の推進により、インドは世界でもトップクラスにフィンテックが普及しています。競合企業が数多くある中で、Razorpayは政府が主導する電子決済システムなどの仲介を担い、2021年にインドでユニコーンになった企業の80%に利用されていることからも、高い評価を受けていることがわかります。また、Paypalと提携した国際送金の取り扱いや、マレーシアへの進出など、世界を見据えた事業拡大に乗り出しています。
(出所:TECHABLE)
まとめ
インドは、政府の支援や環境の変化によって、この数年でスタートアップ大国と呼ばれるようになりました。しかし、まだまだ国内では多くの課題を抱えており、今後もその解決のために多くのスタートアップが生まれてくることが予想されます。投資する側にとっても、成長を続けるインドは魅力的な市場であるため、大きなチャンスを掴もうと熱い視線を送っています。急成長を続けているフィンテックやEコマースのみならず、アグリテックやヘルスケアといった社会課題が多く残されている分野から、次世代のユニコーン企業が誕生するかもしれません。インドのスタートアップ企業の今後の動きに注目です。