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イノベーター理論とキャズム理論の意味

2016/01/23COLUMN

インキュベーションやベンチャー企業への出資案件に関わっていると、あまり品の良い言葉ではないのですが、創業企業の経営状態に対して「今は何とか食えてる」とか「やっとハネたね~」とか云うような表現を使うことがあります。

マーケティングの視点で、何を指しているかを少し理論的におさらいしてみましょう。

イノベーター理論とは?

まず、イノベーター理論というものがあります。

これは1962年、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が提唱した、イノベーションの普及に関する理論です。(結構古い理論なんですね)

消費者の新しい商品の購入に対する態度を購入の早い順に、下表のようにの5つのタイプに分類しました。

1.イノベーター(革新的採用者)2.5%
2.オピニオンリーダー、アーリー・アダプター(初期少数採用者)13.5%
3.アーリー・マジョリティ(初期多数採用者)34%
4.レイト・マジョリティ(後期多数採用者)34%
5.ラガード(伝統主義者、または採用遅滞者) 16%

この5つのタイプの割合は、右下のグラフのようなベルカーブ(釣鐘型)で表されます。

このベルカーブを、商品普及の累積度数分布曲線であるS字カーブと比較し、イノベーターとオピニオンリーダーの割合を足した16%のラインが、S字カーブが急激に上昇するラインと重なることから、オピニオンリーダーへの普及が商品普及のポイントであることを見出し、これを「普及率16%の論理」として提唱しました。

自分の身に当てはめて考えるなら、「あなたがケータイをスマホに替えたのいつ?」なんて云うのはわかりやすい例かもしれませんね。

キャズム(深いミゾ)理論

このイノベーター理論に対しては、キャズム理論という考えが異を唱えており、コンシューママーケティング上の顧客接点を考えれば、こちらがよりフィットしている考えかもしれません。

crossingchasm

特にSNSが普及した現在、少数のオピニオンリーダーの動向がフォロワーに与える影響よりも、フォロワー同士の情報交換の方がマーケット形成におけるウェイトが高いように思います。

米国のマーケティング・コンサルタント ジェフリー・ムーア によるキャズム理論というのは、イノベーターとオピニオンリーダー(=アーリー・アダプター)で構成される初期市場と、アーリー・マジョリティやレイト・マジョリティによって構成される普及市場のあいだには、簡単には超えられない「キャズム(深いミゾ)」があるという考え方です。

顧客セグメントの違いで分類される、このキャズムを超えなくては、新しい商品は普及市場でヒットすることはなく、小規模な初期市場の中でやがては消滅する運命を辿るというものです。(ここに私たちTSIのビジネスチャンス、投資機会もあるわけです。)

キャズムの原因は、オピニオンリーダーは「誰も使っていない商品の購入を他人に先んじる」ことを好む層であるのに対して、アーリー・マジョリティは「多くの人が購入していて安心できる商品は他人に遅れをとりたくない」と考える層であるという点にあります。

アーリー・マジョリティは、「多くの人が使っている」ことを判断材料に商品購入を決断するので、ほんの一部のオピニオンリーダーにしか利用されていないということは、アーリー・マジョリティに商品購入をためらわせる理由になっても、商品購入のきっかけにはなりません。

キャズム(深いミゾ)を超える

そのため、このキャズムを超えるためには、オピニオンリーダーへの普及を考えるだけでなく、キャズムを超えて普及市場を形成していくための第一歩として、適切なアーリー・マジョリティ層を一気に攻略すること(ブームを仕掛けること)が重要となります。

コスト(価格)要素の比重が大きいと思いますが、例えば携帯電話の普及や一般家庭へのインターネット通信網の普及をみれば明らかなように、技術進歩の激しい業界においては、キャズム理論をしっかり認識しておく必要があるでしょう。

これは、イノベーター理論を否定するというよりも、顧客セグメントとマーケット・ポジショニングといったマーケティングの基本の重要性を再認識させてくれるものだと思います。

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